清掃員シリーズ
□11
1ページ/2ページ
中庭に生徒達の賑やかな話し声が響くお昼の時間。
私は幾つかのガーデンテーブルが並べられた一角へと向かい、その中の一つに腰を下ろして持参した弁当を広げた。
普段のお昼ご飯は購買や食堂で済ませているので、それ以外の昼食は久しぶりだ。
何となく作ってみようという気持ちになっただけで、決して給料日前でお財布事情が厳しいとかそういうわけでは…………なくはないのだが。
そんな裏事情もあり、弁当と言ってもそれほど手の込んだものではなかった。
容れ物もちゃんとした弁当箱の手持ちが無いのでタッパーで代用していたり、中身も昨晩のおかずの余り物と朝簡単に作れるものを入れただけだったり…。
懐に余裕があればもう少し栄養バランスや見栄え等にも気を遣えたのだろうが、誰かに見せるものでもないし、自分のお腹を満たす分にはこれで充分である。
「弁当?珍しいね」
『ひゃあっ!?……って、ユーリ君か……びっくりした…』
突如背後から降ってきた声に飛び上がった。
が、すぐに顔馴染みであることに気付いて胸を撫で下ろす。
アカデミア生活では仕事を共にする同僚達と時折会話を交わす教師達くらいとしか人間関係が無く、その同僚達も仕事の内容が違えば朝礼以外の場ではほとんど顔を合わせない場合が多い。
その上同年代の人間というのもほとんど居なかった。
だからこそ、貴重な話し相手であるユーリ君の来訪は普段ならばとても喜ばしいことである。
ただ、今は来てほしくなかった。
ちょうど開けたばかりの弁当は先程述べた通りの代物なので、とりあえずそっと自分の身体の陰に隠して蓋をする。
「今更何隠してるの」
『あ、あはは……』
…………誤魔化せなかった。
『違うのユーリ君、これはたまたまちょっと時間と冷蔵庫に余裕が無かったというか、もっと言うとお財布に余裕が無かったというか、本気を出せばもっとちゃんとしたお料理も作れるから、断じてこれが私の実力というわけじゃなくて』
「ふーん、そうなんだ」
そんな返事と共にニヤリとした笑みを浮かべる彼はいかにも私の弁明を信じていなさそうで、しかしこちらが必死になればなるほど益々信用されなさそうで歯痒くなる。
デュエルも出来ず何の役にも立たない私でも将来政略結婚の道具くらいにはなるだろうと親は思っていたのか、見限られた後も料理や様々な教養や技術は叩き込まれていた。
そのため基礎は出来ているはずだし、材料や道具が揃っていればしっかりとした料理も作れると自負している。
それを認めてもらうには論より証拠だ。
今度機会があれば豪華なフルコースを用意してユーリ君をぎゃふんと言わせてやろう、と決意した。
「で?食べないの?」
『…………食べます』
空腹には抗えないので、居た堪れない気持ちをぐっとこらえて再び弁当を広げる。
こうなると分かっていればもっと気合いを入れて作ったのに、と思っても後の祭りだ。
→