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□目に映るもの07
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相変わらず今日も笑う

その顔から怯えや恐怖を覚える者はいない
むしろ魅了され相手まで笑顔が零れるような優しい、親しみやすい笑顔

しかしこの学校で
目を合わせて来る奴は少なくなった
廊下を通れば1年坊の自分に
上級生ですら道を開ける

手を出せばラッパッパが黙っていないと
もはや暗黙の常識となっている




部室に向かって歩きながら
最後の学校だとなんだと意識する

素直にこの学校が好きだった
形、肩書き、ルールにも縛られない

意思と意思のぶつかり合い
気に入らなければ壊せばいい
力でねじ伏せろ、勝ちたいなら強くなれ
弱ければ負ける自然の摂理

同調者ばかりの人間とは違う
拳で戦いマジになれるから
信頼で結ばれる同志が生まれる

育った環境から差別される事もない
思想や志しを矯正される事もない


(・・・本当はもう少し居たいんだけどな)

ラッパッパの階段
薄暗く、人気はなく、重々しい
初めてここに立った時と何も変わってない

気配で分かる
もう全員揃っている
時刻はまもなく11時
哀愁を心に押し留め笑顔を浮かべた





ーーガチャ

「おはようございます。」


全員がこちらを見つめる
笑顔は絶やさずゆっくりとトリゴヤに近づく


「名前、昨日は「昨日はすいませんでした
頭突き痛かったですよね??」」


先に謝罪の言葉を述べ
トリゴヤの赤い額を
腫れ物を扱うように撫でる


「名前」


優子の声から不安が見えた


「優子さん、約束ですよね・・・、」


部室の外に気配を見たが
悟られぬよう何事もないように
一息付き顔を上げ真っ直ぐに優子を見つめる


「この学校を辞めさせていただきます」


時間が止まったように静まり返る
予想外の切り出しに
優子も思考が追いつかない様子だったが
静寂の中ゆっくりと口を開く


「何を・・・」

「初めてこの部室に来た時に言いました
ここに居ても見える物も
感じる物も違ってしまうと

もちろん皆さんのせいではありません
私があの夜・・・ 両親を自分の手で殺した
あの夜から、もう真っ当な人間ではなかった

だから違っていて当然なんです ニコ」

「ちょっ・・・な、どういう事だ」

「意味わかんねぇんだけど」

「名前が・・・殺した??」

「はい、全て話します
・・・この目で見てきた事全てを」


自然と目線が下がっていく
当時の情景が頭に浮かぶ


「・・・当時5歳だった私の家は
外面は幸せそうな三人家族で、
母はデザイナー父はフリーライターで
主に政治家や暴力団を狙っていました

でも父は酔うことで暴力を振るう人で
それを恐れた母は父の飲酒を見る度
金だけ持ち家を開けていて・・・

ある日、鳥羽組の大ネタを仕入れた父を
口封じの為に一家惨殺しに
家に押しかけて来ました。

その時男の一人がこう言ったんです

『仲間になって俺の元に来るなら
お前だけでも助けてやるよ

上の命令でどのみちこの2人は殺すんだ
虐待されてたんならもうお前は死んだ
って事にして、俺が使ってやる

選べ、親殺して自由になるか
仲良し家族で一緒にいるか』と

迷いなんかなかった、怖くもなかった
殺したかった、解放されたくて
自分の意思で刺したんです

でも親の命と引換に得たのは
自由ではなく、この目
ドラッグの実験体にされたんです

その借りを返す為
復讐の為に生きてきた」


ふと意識を過去から引き戻し
顔を上げると信じられないという顔の
優子と目が合い困ったように笑った


「でも遅かった

あの夜関わった者の
ほとんどは死んでいたり
行方がわからないんです

暴力団が関わってるので
覚悟はしていたのですが

鳥羽組に直接押しかけて聞き出しても
得られるものは少なく
正直もう打つ手がないんです (笑)」


室内の張り詰めた緊張は解けぬまま
そこに恐怖が入り込んで入り交じる

それを生み出している自分自身に慢心した


「・・・ならもう、終わりでいいだろ」


聖書に目を落とすブラックが呟く
目線は動かぬまま


「もう、終わったんでしょ??
これ以上、辛い思いしないで名前」


トリゴヤはそっと左手を握り
訴えるような目線を向けてくる

この部室に通い半年以上
ラッパッパの面々は今でも信じている

呼びかけ続け、手を差し伸べ続ける事で
いつかその手を握り返してくれるのではと
待ち望んでいる


(だから何も、変えられないんだよ)


「(笑)
そんな簡単に片付く問題じゃないんですよ、これは

少なくとも私の人生まるまるかけてきて
そんなあっさり辞めていては
復讐なんかできるわけない」

「どういう意味だ」

「今ドラッグといっても
数種類だけではないんですよ

買い手がいれば、売り手もいる
売り手がいるという事は、
作り手もいるという事です」

「まさか名前・・・お前・・・」

ーーニコッ
「いえ、サドさん
私は麻薬など作っていません
体内に入っているものが
何なのか探していたんです

まぁ、それも結局
見つからなかったんですけど(笑)」


可笑しそうにひとしきり笑うと
改めて優子を見た

(怒りと迷い・・・か
部長さんがそんなんでどうするんですか)
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