BOOK

□目に映るもの06
2ページ/5ページ



「おはようございます」

「おーす」

「名前〜」

「?? 優子さん何してるんですか??」

抱きついて来たゲキカラを受け止め
優子に尋ねる

部室には一応ストーブが用意されている
威力はそんなにないが
そんなに広くない部室には十分だった

そのストーブに近くに鎮座している
部長様専用の椅子に座る優子は
白いファーのついたサドのコートに
足まですっぽり隠して頭だけ出し座っている

持ち主はストーブの近くに蹲り
相変わらずのポーカーフェイス(笑)

「これあったけぇんだぞ名前!!
サドが心よく貸してくれてな(笑)」

(嘘だ(笑))

いや、本人はその気だが
サドが逆らえなかったっといったところか

「名前トリゴヤ見てねぇか??」

無理に平然を装い
爪の手入れをするシブヤに向き直る

「いいえ
ここに来るまで見ていないですよ」

「ったく何やってんだよ」

口調が荒いのは
心配で仕方ないから

「飲み物買うのにどこまで行ったんだ・・・」
ーーーパタン

立ち上がったブラックを抑える

「私が探して来ますよ
足跡辿れば直ぐ見つかります」

「・・・だが」

「大丈夫です
ちゃんと戻って来ますから」
ーーーニコ・・・

「じゃあ2時までには戻れよ
見つからなくてもだ、分かったな??」

やり取りを見ていた優子から
2時間の猶予をもらう

「はい」

部室を出て直ぐ足跡を見つけた
半年以上も部室という空間で同じ時間を過ごしていたので
情報も多く、直ぐに探し出す自信があった

学校の自販機に来たのは間違いないが
また目的地を変えている

着いたのは名前のクラスだった

「よう名前!!」

手を振るオタに寄りかかり
微笑みながら返事を返すが

耳まで赤くなって黙ってしまったので
重かったのかと思い体を離す

「腹減ってんのか??」

「ううん
さっきトリゴヤさん来なかった??」

確かに七輪の前には足跡があるが
ホルモンは皆首を傾げた

「いや、見てねぇけど??」

「そっか、ありがとう」

(てことは入れ違いかな??)

足跡を辿って行くと昇降口だった
小雨が降っているがまだ足跡は消えていない
躊躇いなく歩き出す

なんとなくトリゴヤの行動が読めてきた
おそらく目的のものが自販機にはなく
ホルモンをパシろうとしたがタイミング悪く
トイレか何かで会えず
仕方なく自分の足で近くの自販機かコンビニを探しに出た
といったところだろう

足跡はやはりコンビニの方へ続いており
雨が強くなって来たので市が運営する屋根付きの自転車の駐輪場の中を歩く


「あ、ト・・・リ、ゴヤ・・・さん??」

「おーかーえーり」

前方に現れたその人は今まで共に過ごしたトリゴヤと
匂いも背格好も同じなのに
雰囲気がまるで違う

「え・・・っと、トリゴヤさんですよね??
どうしたん・・・」
ーーーガシッ!!

変化の仕方に理由があるのかと思い
歩み寄った瞬間
頭を捕まれる


「、、、っっ!!??」

何が起こったのか判断もつかないまま頭に流れてくるのは過去の記憶
鮮明に、生々しく、ないはずの感覚さえ
蘇ったように感じた


嘲笑う周りの大人

目の前で死にかけの両親

それを見下ろす自分

こびり付く赤い液体

充満する鉄の匂い

手の中にある硬い物体

熱くもないのに雫が頬を伝う

見つめてくるその瞳を見返す事しかできない
非力な自分

「っ、、トリ、ゴヤァ!!!!」
ーーーブンッ・・・

意識を強引に引き戻し
本能的に殴りかかるが虚しく空を切る

いつの間にか後ろに立ったそいつは
たった一言「仲間だな(笑)」と呟いた


高いところから突き落とされた様な空虚感
過去と現実の判断が追いつかない
このまま死・・・・・・

(・・・に、たくない、、まだ、駄目
まだ何も終わってない!!)

歯を食いしばり前に倒れ込むのを堪え
後ろに立つそいつを掴む

「っ!!」

「どうしたんですか、、トリゴヤさん
元に戻って下さい・・・

もう隠しません、見られてしまったし
最後くらい、ちゃんと知ってもらいたいっ!!」
ーーーゴッ!!

トリゴヤの頭を鷲掴みにし
強く額を合わせ目を覗き込む

先程の情景に今度は鳥の羽が映った気がした
しかしさすがに脳に負担がかかり過ぎたのか
まるで睡眠薬を飲んだように
ゆっくり眠りに着いていくように膝から崩れ落ちる

「許・・・せ・・・」遠くで聞こえたその声が
誰のものかはっきりとは分からなかった
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ