BOOK

□目に映るもの05
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「名前なー
学生のうちは勉強と言われるが
夏休みぐらい遊んだらどうだ??」

榎木は呆れたようにため息をついて
冷たいお茶を診察室のベッドに
取り付けてあるテーブルに置く



本で埋まったベットの中央に座って
本を読みふけっていた名前が
目で文字を追いつつ、お茶に手を伸ばす

「学校の図書館にあるのは全部読んだけど
全然調べ足りないし
遊びになんか一人で行ってもする事ないよ」


ーーースッ・・・ビシャッ!!

手から滑り落ちたお茶は床を濡らす
それを見た名前はまたかという顔をする



「いくら本が好きでも
そんなに読みふけってたら体おかしくするぞ
大体、そんな難しいの分かるのか??」



床を拭こうとする名前を制し
プラスチックのコップに氷を入れて
周りを拭く

重さが見えても実際の力加減が分からないため名前はとてつもなく不器用で
皿など洗わせた日には大変なことになる



「だって元は化学とかでしょ??
何となくなら分かる」



ありがとうとと言って
入れなおしてもらったお茶を今度はしっかりと持ち飲み干す


今名前が読んでいるのは
榎木が持っている医学の論文や参考書で
脳神経の辺りが主だった



ーーーブブブ・・・


メールの着信を見て開いてみると
サドから召集のメールが届いていた


「うちの主は本より遊びが好きみたい」



「ん?? 主??」




「今日花火大会なんだー」

メールの返信をしつつ他人事のように呟く


「ここいらじゃ、一番規模がでかいからな
せっかくだ、楽しんで来い」




「集合、夕方だから
まだ居させてよ、暇でしょ??」




「暇なわけあるか!!
急患が入ったら直ぐにどけよ

あーあと本、あんま破くなよ」


白衣の背中を見送って
失礼すぎでしょと心の中で呟き
視線を本に戻した

















「あははは!!
名前〜〜〜!!」


神社に6時半に集まれとのご命令を受け
5分前に行けばもう全員揃っていた


「すいません、遅くなってしまって」




「まだ、時間じゃないだろ」




「お腹空いた〜」


後ろから乗りかかってきたトリゴヤに
笑いかけ何か食べましょうかと
提案し屋台ひしめく神社の境内に入る



「おい、たこ焼き食うぞ!!」




「熱いから火傷しないようにしてください」




「焼きそばーーー!!」




「走るな」


大はしゃぎな優子とゲキカラを
サドとブラックが抑えようと走り回る
トリゴヤに捕まったままの名前も
主に食べ物中心に連れ回されていた


「名前、ほら」




「あ、シブヤさん綿菓子ですか
でっかいの買いましたね
美味しいですか??」




「気になんなら食ってみろよ」


何か言いかけたがその言葉は出す事なく
優しく微笑みいただきますと
綿菓子を摘み取る



「あ、名前かき氷食べる〜??」




「お前一気に食って頭痛くなんなよ」




「かき氷食べると頭痛くなるんですか??」



え、と二人が名前を見る


「食べた事なくて・・・
夏祭りなんて初めて来たから」


眉を下げ自傷するように弱々しく笑う
祭りなど誘われたことも無く
自分には無縁だと思っていた


「でも、今日は来たろ??」


後ろを振り返れば大量に買い込んだ
食べ物をビニールにいれ
悪戯っ子のように笑っていた


「祭りの楽しみ教えてやる
今日は名前の祭り第一回記念日だな」




「名前イカ焼きたべよーーー」




「向こうに金魚掬いもありましたね」



普段通りの会話をしつつ神社の隅に腰掛ける

この人達は常人から見て普通じゃないはずの名前でもお構い無しに普通に接してくる


気恥ずかしくて、恐れ多くて
こっそりいなくなろうと思っても
離してくれない


横一列に腰かけるメンバーを見て
一番端に静かに腰掛けた


「ほら、名前の分だ」



隣にいたブラックからプラスチックの容器に山盛りに盛られた食べ物を受け取る


「ありがとうございます
毎年皆さんで来てるんですか??」




「と言ってもまだ数えるほどだ
今年からは名前も一緒にな」


微笑んだブラックが優しく頭を撫でてくれた


「ブラックダメーー
名前は私のーーー!!」




「いや、お前のではないだろ」


ブラックとは反対側に抱き着いてきた
ゲキカラはブラックの手をどけ
名前の頭を抱えるように抱きしめた


「おーい、早く食わねーと
遊ぶ時間なくなんぞー」


優子に呼びかけられたゲキカラは慌てたように名前を離し早く食べて!!と急かす

こんな日常が当たり前になれば
誰に願うわけでもなくそう思った
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