明々煌々
□余興のおわり
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目を開けると、そこはどこかの洋館の廊下だった。
イコは人知れず笑みを浮かべると、勝手知ったるとばかりにどこかへと足を踏み出した。
コツリ、コツリ、イコの足音だけが無音の廊下に響き渡る。
しばらく行くと、突然、角から針金の鳥が襲いかかってきた。
イコは特に驚いた様子もなく片腕を振るう。
すると針金の小鳥はその場でフリーズして、砂になって崩れ落ちてしまった。
攻撃の主は、金髪のたおやかな女性――彼女は角の向こうに、厳しい表情で立ちふさがっていた。
アインツベルンのホムンクルス、アイリスフィールだ。
「貴方は…」
「やあ。お邪魔しているよ」
気の抜けるような挨拶に、ますます不快そうな顔をするアイリスフィール。
「そんなに警戒しないでよ、ちょっと君に用事があるだけなんだから」
「…用事?」
「うん。“勝者”を、リセットしようと思って」
「!!」
一歩退くアイリスフィールに、笑みを深くしたイコ。
「なぁに、別に悪いことじゃないだろう。不公平を正しに来ただけさ。最初から、衞宮切嗣の希望が通るなんて、ずるいじゃないか。まあ、それを横からかっさらうのも面白いとは思うけど…おっと、勝利への大事な一歩、ってやつだね」
「っ、させないわ!」
「うんうん、好きなだけ足掻けばいいよ…ただし、たかだか人の真似事をしているホムンクルス(おもちゃ)ごときが、私に太刀打ちできるのならば、の話だけどね」
イコがトン、と足を踏み出すと、そこから青白い魔法陣が浮かび上がる。
「君の“中”とはいえ、元は魔力の産物である限り私の優位は変わらない。ま、君のフィールドであることはハンデだけどね」
「くっ…」
「まったく、面倒な“外装”だ。ただの運び手とするならば、感情など不必要きわまりないのに。まあ、今ここで消してしまうのだから、今更さしたる問題ではないのだけれど…手間なだけで」
「!」
「ふふふ、安心しなさい。痛くも痒くもない。全てを忘れるだけだよ…全てをね。ああ、だが、ただ消してしまうのも不憫だし、なにより面白くない。だから、勝負をしよう。
――ルールは簡単だ。私を退ければ君の勝ち。私はここを一歩も動かないから、君は好きなだけ攻撃したまえ。タイムリミットは、24時間くらいかな。さあ、始めよう!」
その言葉とともに、イコは足元の魔法陣から生えた巨木に包まれるように飲み込まれた。