明々煌々
□余興のおわり
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「ふう…」
真っ暗な洞窟の中で、イコは息をついた。
「イコ様」
イコの覚醒を感じたディルムッドが、松明に火をつけて洞窟の中を照らした。
「ああ、ありがとう。うまくいったよ。これで彼は我々の“仲間”になった。ただ…聖杯への干渉が少し遅れてしまうのが心配だね。決戦が明日の昼ごろになればいいんだけど…」
彼女もまた、最後の時が近づいてきたことを感じ取っていた。
「と…その前に、お客さんかな」
洞窟の入口に、黒い影が立った。
「っ、バーサーカー!」
瞬時にディルムッドが槍を構える。
「槍を引きなさいディルムッド。ゲイ・ボウのない今、バーサーカー相手に確実に有利な戦いができるわけではない。それに間桐雁夜が私の手の内にある今、彼もまた私の仲間だ」
「しかし、奴は理性がありませんから、万が一ということも…」
「大丈夫さ、私なら」
イコはバーサーカーに向けて手を振った。
「…っ……!」
バーサーカーは、身を震わせながら跪き、こちらに攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。
「…そうでしたね。出すぎた真似をいたしました」
彼女は、他人のサーヴァントさえ自在に操る術を持っている。
つまりいくら危険でも敵意にまみれていても、そもそもサーヴァントごときが彼女を傷つけられるわけがないのだ。
槍を引き、跪いたランサーに、イコはこともなげに肩をすくめる。
「構わないよ。君の言うとおり、万が一ということもあり得ないわけじゃないからね。一応、いつでも応戦できるようにだけはしておいておくれ」
「はっ」
そして、イコは間桐雁夜の上に屈んだ。
「彼の体も、少し治しておいてやらないと。あれま、こんなに刻印蟲にやられて…間桐の魔術は昔からえげつないけど、相変わらずだねぇ」
雁夜の体を蝕む蟲を駆除し、ボロボロの体を最低限修復する。
ついでに雁夜自身の魔術回路を若干…少なくともバーサーカーを維持できる程度まで、刻印蟲なども使わずに増幅させているのを見て、ディルムッドは改めて慄いた。
このお方には、やはりできないことなどないのではないか…?
生死も、感情も、記憶も…この人にとっては子どもの玩具のように軽々と扱えるらしい。
しかし畏怖すると同時に、誇らしさもまた、ディルムッドの胸を満たしていた。
俺はこれから、本当にこの人に手を貸して差し上げられるのだ…!
この素晴らしい、万能にも等しいお方の、お役に立てる!!
「…とりあえずこんなもんかな。さてディルムッド、今しばらく警護を頼むよ」
アイリスフィールに用いている陣に乗ると、イコはそういった。
「こちらが予定より遅れそうだから、調整してくるよ。ああそれから、間桐雁夜が目を覚ましたら、聖杯を探し出して、それに群がる者たちを足止めしておいてほしいと伝えておいておくれ」
「かしこまりました」
「これが終わったら決戦だ。ディルムッド、君の槍の冴えを見せてほしい」
「もちろんです。勝利を我が主の御手に」
「期待しているよ」
イコは三度、意識を精神世界へと向けた。