明々煌々
□断罪のはじまり
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未遠川に何か巨大なものが現れたという情報は、すでにかなり広まっているようだった。
道行く人々の中にも、野次馬しようと冬木大橋に向かうものたちがいるらしく、川に近づけば近づくほど人の数が増えた。
「まったく、さすが平和ボケした国民だよ。意味不明なものが出たら、普通は逃げるもんなのに…」
そんなイコはというと、川にさほど近づいていないというのに、途中で道を外れ、そこそこ背の高いビルの屋上に登っていた。
給水塔の上まであがると、手前の建物群が少々邪魔だが、川のあたりをほとんど一望することができた。
「あれか。ジルってばあんな目立つものをよくも…事後処理が大変そうだ。それに、あれはギルのヴィマーナと戦闘機…?まあ、なんでもいか。私には関係ないし。ところで、私のサーヴァントはどこかな」
川のあたりに見える巨大な海魔。
タコっぽい、触手を大量に持ったとにかくおぞましく気持ち悪い生き物が蠢いていた。
今のところ、岸には上がっていないようだが、それも時間の問題だろう。
ついでに、なぜかその上空でアーチャーの宝具であるヴィマーナとバーサーカーが乗った空自の戦闘機が追いかけっこをしているが、全く意味がわからない。
考えても仕方ないものはほうっておこうと、ひとまずイコは川岸にいるはずの自分のサーヴァントを探そうとした。
流石に距離がありすぎるので、使い魔の目を使って河川敷を見る。
そこには、ランサーとセイバー、ライダー、そしてアイリスフィールとウェイバーがいた。
と、ライダーがひとり、戦車で空に舞い上がり、海魔の近くまで行くと、おぞましい巨体もろとも消え去った。
「固有結界に引き込んだのか…でも、私抜きの軍勢では倒せなさそうだけど。時間稼ぎかな」
遠目にしか確認していないが、あれはどこぞの神話の怪物。
再生能力に優れる上に、分厚い皮を破るには、いっそ核まで破壊するような攻撃が必要だろう。
もちろん、イコであれば、核はおろかその全てを無に帰すようなことも可能だが…
「ひとまずは静観しておくかな。ランサーの無事だけは確保できるようにして、あとは一般人に被害が出ないようにしなければ…」
イコは使い魔とのつながりを断ち切り、両手を掲げると、短く何事かを呟いた。
一拍おいて、海魔がいたあたりと川岸の一部に物理的なものの通過を遮る結界が現れた。
おかげで、ライダーの固有結果が切れても、海魔が川岸にあがり、街を破壊するようなことは起こらない。
もちろん“こっそりと”なので、これは川岸のサーヴァントやマスターたちは、よほど注意深くしていなければ気づいていないはずだ。
イコは、至極ご満悦の様子で、再び使い魔と自分の視覚をリンクさせた。
ちなみに、ヴィマーナを追いかけていたバーサーカーが操る戦闘機は、図らずもちょうど目の前に結界ができたため、それに激突して墜落していた。
見ていたものはもちろん目が点になり、不審に思ったようだが、まあバーサーカーがとち狂って何かやろうとして自爆したに違いないと結論付け、深くは考えなかったらしい。
しつこい狂犬とのやりとりが急に終わり、つまらん、と言葉をこぼしたアーチャーはそのまま上空から地上を悠々と眺めていた。