明々煌々
□宴のはじまり
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冬の海辺は寒い。
しかし、ふたりは寄り添いながら、しばらく昔懐かしい話に花を咲かせていた。
「…ックシュン!」
「冷えたか?」
「んー、そうだねぇ。ちょっと寒いかもしれない」
寒そうに首をすくめるイコに、アーチャーは宝物庫から上等な毛皮のコートを取り出し、少し震えるその肩にかけてやった。
「これを着ていろ…これ以上ここにいてそなたが風邪をひいては困る。我の滞在する屋敷で酒を楽しむか」
「ん、ありがと。それって、もちろんギル秘蔵の酒でしょう?」
「ハッ、時臣の酒蔵には碌なものがないゆえ」
「あぁ、あそこの魔術は金食い虫だからね。ほかにあまりお金をかけられないんだよ」
一緒にベンチを立つ二人。
またも手のひらをアーチャーにさらわれるが、イコも抵抗することなくその手を握り返した。
「そういえばそなたの弟子にその花を持っていかなくても良いのか?」
ずっと持っていては邪魔ではないか、とつないだ手とは反対側に花束を持つイコに、アーチャーは問う。
「え、何。花束を置きに行くのにかこつけて弟子の拠点を探りに行こうって?」
「はっ、そのような姑息な手を使わずとも、雑種どもなど断罪してくれるわ」
「あはは、冗談にだよ。でも、ケイネスの見舞いは酒盛りの後にする。大丈夫、荷物にはならないから。私を誰だと思っているんだい?」
そう言うと同時に、花束は光の粒と化して消えた。
「君の宝物庫ほど大きくはないが、ちょっとした物置なら、私だって持っているんだよ」
いたずらっぽく笑うイコは続ける。
「ギルの宝物庫を真似しただけなんだけどね」
「ふっははは、さすがは世界一の魔法使い。聖杯などなくとも、そなたならばあらゆる願望を叶えられるのだろうな」
「そうかな。案外、できないことも多いけど」
「ほう、例えば?」
「地球を滅ぼすとか?まあ、やる気もないけど」
「…フ、そうだな。そなたほどこの星を愛している者もいるまい」
「まあね。なんだかんだ言って愛着はあるし」
抑止力は私に感謝してほしいくらいだよ、なんて言う明るい笑顔を見下ろしながら、アーチャーも笑った。
アーチャーはイコの願望を知っている。
それが己がきっかけを与えたものだとすれば、彼女はきっと―――