明々煌々

□宴のはじまり
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「そういえば…なんでだろう?」


遠坂は、アーチャーを召喚する際に、アーチャーの遺物を使ったはずだ(さすがに、なんの触媒もなく召喚されるほど、アーチャーは安い英霊ではない)。

アーチャーの遺産や遺品の類は、生前のアーチャーの遺言で、すべての所有権がイコに渡されていた。

イコもそれを承知しており、その死後、一切のアーチャーに由縁のある物を引き取っている。

一部はアーチャーの遺体とともに埋葬されたが、それは墓荒らし対策に施したイコの強力な結界によって保護されているし、それ以外のものは、イコが厳重に管理しているはずなのだ。


「私から物を盗むなんて、そこらへんの魔法使いでも不可能だよ。まして、たかが魔術師が私を出し抜くなどありえないし…一般人はそもそも私が財宝を持っていることを知ることすら…あ、」

「なんだ」

「そういえば、いくつか君の遺品を手放したことがあったよ」


いやーすっかり忘れてた、とカラカラと笑うイコにアーチャーはため息をついた。


「1300年くらい前だったかな。路銀がなくなった時に仕方なく売ったのが最初。魔法の指輪だったと思う。次は、1000年前かな。賭けで負けて、渡しちゃったんだ。たしか…蛇の抜け殻だったよ。君がとってきた不老不死の草を食べた蛇の」


あとで回収しようと思ってすっかり忘れてた、と軽く言うが、王の財宝はそんな軽いものじゃない。


…とはいえそこは惚れた弱みか、友の理解か。

イコが宝物を無駄使いをしても、アーチャーは怒らない。

もとは自身のものとは言え、彼女に託したもの。

浪費し贅沢し、使い尽くしたとしても、それが彼女の望みならば構わなかった。

と言っても、こう見えて義理難く、堅実なイコは、滅多なことでは無駄遣いなどしないのだから、手放したのもやむを得ない状況だったのだろうと、アーチャーは推理していた。


「きっとそのうちのどれかが遠坂の手に…って、ああ!」

「…今度はなんだ」


再度何かに気づいたように、声を上げたイコ。


「400年前、砂漠越えした時に宝物庫の鍵を落としたよ」

「何をしているこの阿呆!」


さすがのアーチャーも、ベンチから立ち上がって怒鳴った。

宝物庫の鍵を落としたなんて、万が一誰かが拾えば意図せず財宝が世に流出してしまう可能性があるのだ。

だが怒りを顕にしたアーチャーに対しても、あまり悪びれた様子のないイコ。

それどころか、笑っている始末だ。


「あはは、大丈夫大丈夫。その後慌てて宝物庫に守りの結界を増やして、鍵では開けないようにしておいたから。開きたかったら、私かギルの血が必要だ。幸いにして、君の血族はすべて我が守護の元にある。つまり、私の目の届かないところで宝物庫に入れる者はいないということだよ」


緊張感のないイコに、「そういう問題じゃない」とは思ったものの、彼女の笑顔に毒気が抜かれたアーチャーは、疲れたようにどさりとベンチに腰を下ろした。


「ああ、そうだった。そなたはそう言う奴だった…」


昔から、イコは抜けているように見えて…掴みどころがない。

どこまで素で、どこまでわざとなのかはわからないが、とにかくイコのマイペースさに振り回されるのは、いかな英雄王といえど疲れるのだ(というより、ここまで振り回すのはイコしかいない)。


だがアーチャーは、それでもいいか、とカラリと笑うイコの横顔に目を細めた。

なにせ、自分の理解者であり友であり、また意中の人物(妻)でもあるイコが――沿う人もなく、長い長い生をたった一人で過ごしている彼女が、楽しそうに笑っているのだ。

彼女からすれば、ほんの一瞬に過ぎない時間でも、喜びをや楽しみを自分が与えているのならば、些細な失敗などに怒る必要もないではないか、とイコの理解者であるアーチャーは思うのだ。

そうして、王としてではなく、対等な者として寛大な心で、いつものように彼女の突飛な行動を赦すのだった。
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