明々煌々
□絶望のはじまり
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「これはこれは…派手にやってくれたものだね」
見上げるイコの視線の先には、最上階が爆破され、激しく燃え上がる高層ホテル。
野次馬に混じり、素早く周囲を探った。
「…アサシンに、使い魔が二体。ふむ…令呪の持ち主もいるようだが、この犯人は彼だろうねぇ」
衛宮切嗣…そう、声もなくつぶやいたイコ。
ケイネスとは令呪のつながりで、ソラウとは魔力供給者をカモフラージュするためにランサーとのパスの間に、中継するように魔導回路をつないでいるため、イコは彼らの居場所を知ることができた。
二人とランサーは、無事に逃れられたらしい。
追手や監視者を巻いてから、弟子たちのもとへと向かった。
「ランサー」
「! 主…!」
たどり着いたのは、いざという時の隠れ家に指定していた廃墟。
周囲を警備していたランサーの姿を目に留め、声をかける。
ランサーは一瞬戦闘態勢を取ろうとしたが、イコだと確認すると、構えを解いてほっとしたような表情を浮かべた。
「ケイネスとソラウは?」
「おふたりは、奥で休まれています」
「そうか…ご苦労だったね、ランサー」
「いえ。敵の思惑を推し量ることができず、結果として拠点を失う事になってしまいました」
私の力不足です、とうなだれるランサー。
「いや、今回はケイネスの采配ミスだよ。あの子はどうも、昔から自分を過大評価しすぎるところがあってね。油断するなと忠告はしたんだが」
困ったことだよ、とため息をつくイコに、ランサーはどう返していいかわからないようだった。
「…ところで、ケイネスとの関係はどうかな?我儘な子だから、相手をするのが大変だとは思うけど」
「いいえ、ケイネス殿は素晴らしいお方で…」
「お世辞はいいよ、ランサー。君が思った通りのことを教えてくれ。味方のことも、正確に知っておきたい」
促されたランサーは少しばかり躊躇ったあと、言いにくそうに口を開いた。
「…実は、あまり良好とは言えません。ソラウ様が、私の魅了の呪い(チャーム)にかかってしまったようで…」
「ソラウが?あの子も、ある程度の魔術を学んでいるから、君の魔貌くらいなら抗うことができるはずだけど…何かの間違いじゃない?」
「いいえ。彼女の目は…私に魅了されてしまった乙女たちと同じ目です」
「…なるほど。どういうわけかはわからないが、ソラウが君に夢中になってしまって、ケイネスが不機嫌なんだね」
「ええ、まあ…」
「ケイネスは、ソラウが大好きだからなぁ…本当は私がどうにかすべきなんだろうけどね。まだ、私が君たちに介入すべき時ではない。
君には申し訳ないけど、もうしばらく私抜きでやっていってほしい。いいね?」
「…御意」
すごく不本意そうだが、頷いたランサーに、イコは苦く笑った。
「苦労をかける代わりと言ってはなんだが、君にこのお守りをあげよう」
ランサーに差し出したのは、冬木市内にある神社で買ったと思われるお守り。
なぜか安産祈願だ。
「あ、ありがとうございます」
「いやいや、礼には及ばないよ」
じゃあね、と言ってイコはそのまま去っていってしまった。
「ケイネス殿たちにはお会いにならないので…って、行ってしまわれた」
結局、あの人は何をしに来たんだろうと首をひねった。