明々煌々
□戦いのはじまり
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イコは、ケイネスが来日するまで、開いた霊脈の管理を行いながら、他の参加者についての調べを進めていた。
まず、始まりの御三家のひとつ、遠坂家当主・遠坂時臣。
当人の魔術師としての能力はそう高くはない。
しかし聖杯戦争の監督役・言峰璃正とつながっており、その息子・言峰綺礼は聖杯戦争の参加者であること、彼は聖堂教会に属しながら、時臣の弟子であることもわかっている。
そのつながりをもって、秘密裏に連携を取りながら戦争をするのだろうと考えられる。
同じく御三家の間桐家からは、間桐雁夜が参戦する。
間桐家を出奔し、一年ほど前に帰ってきたかと思うと、参加が決定した。
なぜ自ら飛び出した家に帰ってきたのか理由は定かではないが、ろくに修行もしていないはずなので大した驚異にはならないと思われる。
だがその背後にいる間桐蔵硯については、用心しなければならない。
残る御三家の一つ、アインツベルン家からは「魔術師殺し」の異名をとる傭兵・衛宮切嗣。
魔術師でありながら、銃器を用い、奸計を巡らして戦う。
今回も、妻のアイリスフィール・アインツベルンをマスターと見せかけて目を引き、自分は影から敵陣営を狙う計画を立てていることが判明した。
根っからの魔術師であるケイネスとの相性は最悪だ。
願わくば直接あいまみえることがないよう。
それ以外の参加者は、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと言峰綺礼。
残りは未だ不明だ。
言峰綺礼に関しては、前述のとおり、遠坂との関係がある。
『―――と、今のところ調べられたのはこれだけだね。ふふふ…世間は君が「マスター」であると、バッチリ思い込んでいるらしい』
聖杯戦争への参加が決定してから、イコとケイネスは、イコの礼装の一つである、音声と映像を通信できる手鏡を通して、こまめに連絡を取り合っていた。
「これだけわかっていれば、十分です」
『いいや。引き続き、情報は集めておくよ。
…ところで、君に送った遺物が盗まれた件だけど、どうする?新たな遺物を送った方がいいかな?』
「いいえ。この失態の始末はこちらでつけます。現在、アーチボルト家が総力を上げて下手人を探しておりますし、万が一期限までに取り戻せなくとも、当家でなんとか代わりのものを用意しましょう」
『そうかい…なら遺物に関してはそちらに任せるよ。で、飛行機が到着するのは明後日の午前中だったかな?迎えに行くよ』
「はい。そちらの時間で、朝9時17分に到着する予定です」
『わかった。荷物をホテルにおいたら、その足でサーヴァントを召喚しにいこう。支度はこちらで整えておくよ』
「承知しました。ところで、ソラウを連れて行っても?」
『ソラウを…?ケイネス、聖杯戦争はお遊びではない。もちろん、私は全力でお前たちを守るよ。でも万が一…』
「大丈夫です。ソラウも乗り気ですし、協力者はひとりでも多いほうがいいでしょう」
『…わかった。だが、危険になったらすぐにでもイギリスに帰す。いいね?』
「もちろんです」
手鏡を通して、冬木の様子や敵陣営の情報などを、事細かにやり取りする。
特にケイネスは自尊心が強く、聖杯戦争に対する認識も甘い。
優秀な弟子だが、心配のタネは尽きないので、こうして少しでも優位に立てるようにしているのだが…
『やっぱり、心配だよなぁ…』
「なにかおっしゃいましたかな?」
『…いや。ケイネスも、出発の準備があるだろうから、そろそろ。次に話すときは、日本で直接』
「はい。では、また明後日に」
つながりを断ち切ると、目の前は弟子の部屋から鏡に写ったホテルの部屋へと切り替わる。
大した術ではないが、イコはどっと疲れを感じたようで、大きくため息をついた。
先読みの力はないはずなのに、前途には黒雲が立ち込めているのがわかるようで、気が重い。