天翔ける誓い
□過ぎ去りし日の記憶
1ページ/1ページ
むかしむかし、あるところに一頭の小さなドラゴンがいました。
そのドラゴンは、お母さんと暮らしていました。
お母さんはとても強いドラゴンだったので、広くてあったかい住処も、おいしいご飯も、たくさんのキラキラ光る宝石も、何でも持っていて、そのドラゴンは幸せでした。
でも、ドラゴンにはひとつだけ、どうしても欲しいけど、どうしても手に入らないものがありました。
友達です。
「ずぅっと一緒にいられる友達がほしいな」
ドラゴンがそういうと、お母さんはおかしそうに笑いました。
「おまえは変わっているな。ドラゴンは巣立ったら、いつだってひとりで生きていくものだよ」
そんなある日、空を飛んで散歩していたドラゴンは、川の畔で傷ついて倒れている一人の少年を見つけました。
少年の髪の毛は金色で、太陽の光を浴びて、キラキラ光っています。
住処にある宝石と同じくらいきれいなので、思わず持って帰りたくなりました。
住処に帰ったドラゴンは、少年を介抱しました。
お母さんは、元の場所に戻してきなさい、と言っていましたが、ドラゴンはこのキラキラ輝く髪を気に入っていたのです。
頑固なドラゴンに、最後にはお母さんが折れました。
連れ帰って3日、少年が目を覚ましました。
満身創痍だった少年は、目覚めた瞬間、ドラゴンに襲い掛かりました。
しかし、起きたばっかりだったので、ドラゴンを傷つける前に、また倒れてしまいました。
再び介抱し、次に目を覚ました少年は、ドラゴンに尋ねました。
「どうして助けた?」
「その髪の毛がキラキラしていて、きれいだったから」
少年は、ふんと鼻で笑いました。
数ヶ月後、ドラゴンはすっかり元気になった少年と、お揃いの真っ黒な翼を広げて、並んで大空を散歩していました。
ドラゴンと少年は、友達になっていたのです。
毎日、ドラゴンと少年は一緒にいました。
ドラゴンは、今までよりも、もっとずっと幸せでした。
でも、そんな幸せは長くは続きません。
その日もいつものように、ドラゴンと少年は空中散歩を楽しんでいました。
途中で休憩しようと、いつか、少年が倒れていた川の畔に舞い降りたときです。
突然、待ち伏せしていた人間たちが襲い掛かってきました。
ドラゴンと少年は抵抗しました。
しかし、ドラゴンはまだ子どもだったので、あまり上手く戦えません。
少年はとても強かったのですが、敵はよく訓練された兵士で、しかもすごくたくさんいたので、苦戦していました。
ドラゴンも少年も、傷だらけのふらふらで、もうだめかと思いましたが、子どもの危機に感付いたお母さんが、かけつけてくれました。
お母さんはとても強いので、人間たちをあっという間に倒してしまいました。
こうして間一髪助かったのですが、ドラゴンは翼を傷つけられていて、もう二度と飛べなくなっていました。
ドラゴンは泣きました。
もう、少年と空を散歩できないからです。
その涙を見た少年は、決意しました。
もうドラゴンが悲しまないように、誰よりも強くなって、ドラゴンを守れるようになろう、と。
傷が癒えた少年は、元いた場所に帰ることにしました。
そこで修行をするのです。
友達との別れに、ドラゴンはまた泣いてしまいました。
そんなドラゴンに、少年は言います。
「絶対、迎えにくるから。誰よりも強くなって、迎えにくるから。だから、その時は―――」
少年の言葉に、ドラゴンは満面の笑みを浮かべて大きく頷きます。
「待ってる。ずっと待ってるから」
「「またね」」
こうして、ドラゴンと少年は別々の道を歩み始めました。
でも、二人は寂しくありません。
大事な大事な約束が、二人をつないでいるからです。
『童話 王さまとドラゴン』より