天翔ける誓い

□過ぎ去りし日の記憶
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むかしむかし、あるところに一頭の小さなドラゴンがいました。


そのドラゴンは、お母さんと暮らしていました。


お母さんはとても強いドラゴンだったので、広くてあったかい住処も、おいしいご飯も、たくさんのキラキラ光る宝石も、何でも持っていて、そのドラゴンは幸せでした。


でも、ドラゴンにはひとつだけ、どうしても欲しいけど、どうしても手に入らないものがありました。


友達です。


「ずぅっと一緒にいられる友達がほしいな」


ドラゴンがそういうと、お母さんはおかしそうに笑いました。


「おまえは変わっているな。ドラゴンは巣立ったら、いつだってひとりで生きていくものだよ」




そんなある日、空を飛んで散歩していたドラゴンは、川の畔で傷ついて倒れている一人の少年を見つけました。


少年の髪の毛は金色で、太陽の光を浴びて、キラキラ光っています。


住処にある宝石と同じくらいきれいなので、思わず持って帰りたくなりました。


住処に帰ったドラゴンは、少年を介抱しました。


お母さんは、元の場所に戻してきなさい、と言っていましたが、ドラゴンはこのキラキラ輝く髪を気に入っていたのです。


頑固なドラゴンに、最後にはお母さんが折れました。




連れ帰って3日、少年が目を覚ましました。


満身創痍だった少年は、目覚めた瞬間、ドラゴンに襲い掛かりました。


しかし、起きたばっかりだったので、ドラゴンを傷つける前に、また倒れてしまいました。


再び介抱し、次に目を覚ました少年は、ドラゴンに尋ねました。


「どうして助けた?」


「その髪の毛がキラキラしていて、きれいだったから」


少年は、ふんと鼻で笑いました。




数ヶ月後、ドラゴンはすっかり元気になった少年と、お揃いの真っ黒な翼を広げて、並んで大空を散歩していました。


ドラゴンと少年は、友達になっていたのです。


毎日、ドラゴンと少年は一緒にいました。


ドラゴンは、今までよりも、もっとずっと幸せでした。


でも、そんな幸せは長くは続きません。




その日もいつものように、ドラゴンと少年は空中散歩を楽しんでいました。


途中で休憩しようと、いつか、少年が倒れていた川の畔に舞い降りたときです。


突然、待ち伏せしていた人間たちが襲い掛かってきました。


ドラゴンと少年は抵抗しました。


しかし、ドラゴンはまだ子どもだったので、あまり上手く戦えません。


少年はとても強かったのですが、敵はよく訓練された兵士で、しかもすごくたくさんいたので、苦戦していました。


ドラゴンも少年も、傷だらけのふらふらで、もうだめかと思いましたが、子どもの危機に感付いたお母さんが、かけつけてくれました。


お母さんはとても強いので、人間たちをあっという間に倒してしまいました。


こうして間一髪助かったのですが、ドラゴンは翼を傷つけられていて、もう二度と飛べなくなっていました。


ドラゴンは泣きました。


もう、少年と空を散歩できないからです。


その涙を見た少年は、決意しました。


もうドラゴンが悲しまないように、誰よりも強くなって、ドラゴンを守れるようになろう、と。




傷が癒えた少年は、元いた場所に帰ることにしました。


そこで修行をするのです。


友達との別れに、ドラゴンはまた泣いてしまいました。


そんなドラゴンに、少年は言います。


「絶対、迎えにくるから。誰よりも強くなって、迎えにくるから。だから、その時は―――」


少年の言葉に、ドラゴンは満面の笑みを浮かべて大きく頷きます。


「待ってる。ずっと待ってるから」


「「またね」」




こうして、ドラゴンと少年は別々の道を歩み始めました。


でも、二人は寂しくありません。


大事な大事な約束が、二人をつないでいるからです。



『童話 王さまとドラゴン』より
 

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