明々煌々

□戦いのおわり
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「ディルムッド、この場にて待機せよ。この場にセイバー及びその他聖杯を狙う敵が現れたなら、迎え撃ちなさい」

「御意!」


イコの目の前に頭を垂れるディルムッド。


「ゲイ・ボウを」

「はっ」


ディルムッドは黄薔薇を顕現し、捧げ持った。

槍に手を添え、撫ぜる。


「我が加護を、我が騎士に――」


淡い光がディルムッドを包み込んだ。

魔法使いとして右に出る者はいないイコの加護の魔法――幸運値を高め、絶望的な状況を覆す一手を与える、運命変転の禁忌魔法だ。

少なくはない魔力を対価に、しかしイコはためらうことなくそれをディルムッドに授けた。


「ディルムッド・オディナ、我が騎士よ。必ずや生きて、勝利を私に捧げなさい」

「ハッ!ありがたき幸せ!必ずや勝利を我が主の御手に!」

「これがきっと、この聖杯戦争で最後の戦いだろうね。君の槍の冴え、期待しているよ」


私は聖杯を手にいれる準備をしてくる、と言ったイコは、跪き頭を垂れ続けるディルムッドを置いてホールを出ていった。


残ったのは、静かに澄まし顔で鎮座する聖杯と、ディルムッドだけ。


主に望まれて槍を振るう――何度も繰り返してきたはずなのに、今度ばかりはまるで初陣の時のように心が高ぶっていた。

今や遅しと敵を待ちわびるディルムッドは、己の呼吸音以外のない静寂に、どこか落ち着かない気がした。

意味もなく通路をうろつき、舞台のすぐ前で聖杯を見上げる。


…どれくらいそうしていたのだろうか。

磨きあげられた聖杯に、己の変顔でも映そうかなどと阿呆なことを考え初めつつあったディルムッドの耳に、正面の扉が開かれる軋みが届いた。


「ランサー!?…そうか、貴方と戦わねば、聖杯には至らないか」


聖杯を見上げるセイバーの顔に、一瞬悲哀が過った。

アイリスフィールのことでも思い出してたのだろうか。


「……セイバーか」


舞台の大穴ギリギリに立って聖杯を眺めていたディルムッドは、それに気づかずセイバーをちらりと見やる。

…それどころか、トチ狂って変顔してなくてよかったとディルムッドが思っていたのは、墓場まで持っていきたい事実だ。


「やはりバーサーカーとの死合いに勝ったのは貴様だったのだな」

「…ああ。これまで幾度も刃を交えてきた我らだが、これが最後かと思うと少しもの惜しい。が、それ以上に心踊る!」

「然り。――神々も照覧あれ!我らが清廉なる剣戟を!」


ディルムッドの言葉を最後に、二人は沈黙してそれぞれの得物を構えた。

互いの間合いを図る。


セイバーは、己の悲願を叶えるために。

ディルムッドは、敬愛する主君に勝利を捧げるために。


刃を振るう二人には、どちらも退けない、いや退きたくないそれだけの理由があった。


聖杯を目前にしたこの戦い。

勝利の女神が微笑むのはどちらか…
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