明々煌々
□夢の通ひ路
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「――それは、不老不死の呪縛を解くこと…ではありませんか?そして今度こそ、永久の眠りにつく、それこそが、貴女様の聖杯にかける望みでしょう」
ディルムッドの答えに、一瞬ポカンとしたイコは、次の瞬間盛大に笑い始めた。
「……………あっはははは!!それは面白い考えだ!傑作だよディルムッド、あはは!!」
「――えっ?」
そんなイコに、ディルムッドは目が点になった。
「でも、不老不死を解くために旅をしていたのではありませんか――…!」
「あはは、確かに、生き物として“永遠の眠り”へのあこがれはあるよ。でも、この呪いは冬木の聖杯ごときでは解けないさ!あっははは!!」
「…そうでしたか。ならば、俺も心置きなく聖杯を勝ち取るために槍を振るうことができます」
ディルムッドは、心底ほっとしたようだった。
「せっかく永劫の忠義を誓い、果てしない時をお仕えしようと決心した矢先に主を失うと思ったので…いえ、主が真に望むのであれば、この槍を振るうことに異存はありませんが」
「はっはっはっ、それは杞憂だよ。不老不死を解くにはまだしばらくかかりそうだからね」
愉快そうにそう言ったイコは、柔らかな目線をディルムッドに向けた。
「それにしても…そうか。私の夢か。どこからどこまで見たんだい?聖杯にかける望みを勘違いしていたところからすると、ここ最近の出来事は知らないみたいだけれど?」
「はい、不老不死となった時から、この度の聖杯戦争のマスターに選ばれたところまでです」
「…って、それほぼ全部じゃないか。まさか、ずっと追ってきたんじゃないだろうね?でなきゃ、君は数千年分の夢を見たことになるが…いや、そんなまさかねぇ」
「そのまさかです」
ディルムッドがそう答えた瞬間、イコは大きく目を見開いて、そして次いで心配そうな表情をした。
「それは…大丈夫かい?気がおかしくなったんじゃないか?あの洞窟で数千年、さらに世界を旅して数千年。それに、これからまたさらに数千年…もう、私と共に過ごすのは飽き飽きだろう?」
「確かに、洞窟では夢なのか現実なのか、わからなくなりました。しかし、夢を見たことで、真に貴女様の臣下として立つことができるようになったと思います。それに、夢では貴女様をお助けすることができませんでしたが、これからはお助けできる――それが、楽しみでなりません」
「…はは、上手いことを言うじゃないか」
にやりと口角をあげたイコは、缶ビールをぐびぐびとあおった。
(夢で一方的とはいえ)長い付き合いのディルムッドは、それが安堵と喜びの照れ隠しだとわかったので、柔らかく微笑んだ。
ディルムッドの生暖かい視線に気がついたイコは、きまりが悪くなったような心持ちになって、缶から口を離して咳払いをした。
「ゴホン…さて、ではディルムッド。私の人生云々は置いておいて、さらに親交を深めるためにいくらか話をしよう」
「話…ですか?」
キョトンとしたディルムッドに、缶を掲げたイコは、かわいらしく小首をかしげて言った。
「ああ、そうだよ――例えば、思い出話なんてどうだろう?私たちはお互いの一生を夢で見たけど、出来事は知ってても、その時の気持ちまではなかなか知らないだろう。嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと…たくさん教えておくれ。もっと君を理解したいし、私を理解してもらいたい」
「はっ、かしこまりました」
「ああ、そんなにかしこまらなくて良い。なぁに、酒の席の、肴代わりさ」
刻々と暗くなる空の下、ふたりは穏やかに話をしながら酒を煽った。