明々煌々
□夢の通ひ路
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side Diarmuid
…サーヴァントは夢を見ない。
種明かしのあと、主は我々に休息を取るようおっしゃった。
睡眠の必要がないサーヴァントである俺は、不寝番をしようとしたが、主は俺にも眠るようにお命じになった。
どうやら、新しい身体に霊体が馴染んでいないらしく、しばらくの間は普通の人間のように睡眠が必要らしい。
サーヴァントとして召喚されてから眠るのは初めてで、久しぶりの眠るという行為に、どこか変な感覚だったが、気付かないうちに眠っていたらしい。
だから、この鮮明なビジョンがなんなのか最初はわからなかった。
「主?」
気が付けば、動物の毛皮らしきもので作られた装束を身にまとったイコ様が立っておられた。
俺はなぜか洞窟のような場所の入口に立ち、相対するイコ様の後ろは一面の雪景色だった。
先ほどよりもなんだか妙にやつれていらっしゃるのも気になったが、なによりこの自身の状況の方が俺は疑問だった。
「主、これは幻覚ですか?一体何のために…」
「皆!!」
イコ様が、俺の身体を“すり抜けた”。
「!? …!」
驚いて振り向くと、そこには凄惨な光景が広がっていた。
洞窟の床にはたくさんの骸が横たわり、壁や天井が真っ赤に染まっていたのだ。
「お、お母様…!」
イコ様は、俺など目に入らないようすで、必死に壮年の女をゆすっていた。
「ああ…ああ…!なぜ、誰がこんなことを…」
涙を浮かべた目で、動かない女の体を抱き寄せた。
俺は、訳が分からず辺りを見回す。
そして、あることに気がついた。
衝撃的な光景だが、よく見ればあたりに散らばる亡骸が身にまとっているのは動物の毛皮でできた簡易な装束で、手に持っている武器らしきものも、石や動物の骨などでできている。
なぜこんなにも時代遅れ(というか、原始的)なものを使っているのか、俺は一つの答えを導き出した。
ここは、はるか古(いにしえ)の時代。
きっと万年を生きたというイコ様の記憶の中なのだ。
サーヴァントは夢を見ないという。
だが、マスターはサーヴァントの記憶を夢として垣間見ることがあるらしい。
だからきっと、これはその逆のことが起こっているのだろう。
サーヴァントである俺が、マスターであるイコ様の記憶を覗く。
俺はイコ様のことをもっと理解できるかもしれないと、大きく息を吸い込んだ。