明々煌々
□つかの間の休息
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廃墟の中、粗末なパイプ椅子に座ったイコの目の前には、車椅子のケイネスとその隣の椅子に座ったソラウがいた。
ランサーは、イコの後ろに立ったまま控えている。
「さて、何から話そうかな」
椅子に深く腰掛け直したイコは、もったいぶったようにゆっくりと口を開いた。
✽✽✽✽✽
まず、前提から話さなくてはならないかな。
…敵を騙すには、味方からってね。
ソラウには、ランサーのチャームにかかったフリをしてもらっていたんだ。
なぜかって?そんなの、隙をわざと作って、敵にはまってもらうためにきまっているだろう。
ま、衛宮はその“罠”に見事にはまってくれたわけだ。
あのホムンクルスに、他陣営に関わらせることなく、接触したかったから仕掛けたんだけど。
衛宮は、私の予定通りに動いてくれた…そりゃもう、高笑いしてしまいそうなほど、思い通りに動いてくれるから、一回りしてつまらなさも感じたけど。
奴はまず、無防備なソラウを襲撃した。
あくまで部外者を装っていた私を除いて、サーヴァントであるディルムッドと、拠点の結界に守られているケイネスは狙いづらかっただろうからね。
奴の助手――あの女傭兵がソラウに接触する前に“私”は“ソラウ”のもとへ。
敢えて隙を見せたら、あの助手、まんまと誘いに乗ってくれたよ。
“私”を背後から襲い、無力化したと思い込んだんだ。
え?どういうことかって?
簡単だよ、あの助手が襲ったのは人形…端っから、本物の私はあの場にいなかったってわけ。
隣のビルで様子見をしていたんだよ。
で、私を倒したと思った助手は、次にソラウの人形に襲い掛かった。
本物のソラウは、私の合図でジル──キャスターの消滅と同時に退避済み。
助手に目くらましをかけて、人形と入れ替わってたんだ。
ランサーには、私の魔力が込められた赤い液体を見せて…ああ、あれはただのトマトジュースだよ。
驚愕と焦りで正常に判断できない状態なら、その程度で誤魔化せると思って。
まんまとひっかかってくれたわけだけど。
もちろん、気付いたら気付いたときだったよ。
正直に私のシナリオを話して、協力してもらうつもりだったんだ。
え?最初っから話してくれてもよかったんじゃないかって?
バカ言わないでよ。
ケイネスはすぐ顔に出すから、計画を教えたら相手にばれそうだし、ランサーは…まあ真っ当な騎士だから、嘘をつくのは気が進まないだろうと思って。
いや、なんでそんなに感激してるのランサー…。
…話を戻そうか。
ちゃんと騙されてくれた助手さんはご主人様に土くれを預け、新たに命令を受けていた。
ギアスが成立したタイミングで、ケイネスを殺せというものだ。
これも予想通りだったから、対策もバッチリ立ててあった…ただ、一点の欠点を除いて。
人手が足りなかったんだ。
女傭兵を無力化するためのね。
相手は戦闘経験の豊富な傭兵だから、ソラウには到底渡り合えないだろうし、私も小細工に手間取ってね。
そこで、私はランサーにその空席を埋めてもらうことにした。
元々、ランサーをむざむざ失うつもりがなかったから、計画に組み込むことにしたんだ。
ほらランサー、前にお守りを上げただろう?
それは、現界時に得た現身に許容以上の欠損が生じた際に、霊体を新しい現身に転移させる術式が組み込まれたものだったんだ。
まあ…つまり、今のディルムッドの体は聖杯ではなく、純粋に私の魔力のみによって構成されているってこと。
これで万が一、聖杯が消滅しても現界し続けられるよ。
ああ、安心して、聖杯戦争が終わったら、ちゃんと座に返してあげる…え?必要ない?…えーっと、とりあえずその話は後でしようか。