明々煌々
□断罪のはじまり
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アインツベルン城から帰る途中で、アーチャーと別れたイコは、その足でケイネスたちがいる拠点に向かった。
「ランサー」
「はっ、ここに」
廃墟の入口で声をかけると、イコが近づいてきたことをすでに感知していたらしいランサーがすぐに現れる。
「ケイネスたちは?」
「おやすみ中です」
「そうか」
「あの、主…「ランサー、これをケイネスに渡しておいてくれるかな?見舞いだと言っておいてくれ」…かしこまりました」
何か言いかけたランサーの言葉を遮り、“物置”から取り出した花束をランサーに押し付ける。
恭しく花束を受け取ったランサーを尻目に、イコは大きなあくびをした。
「ふぁあ…さっきまで飲んでいたから眠い眠い。私は昼過ぎまで寝ているつもりだから、何かあったら鏡ではなく使い魔をよこすようにケイネスに伝えておいて」
「御意」
「じゃあね。また夜にでも顔を出すよ」
振り返ることもなく歩き去るイコに、ランサーは声をかけることもできずに見送るしかなかった。
(主は俺を、どう思っておられるのだろう…いや、あのご様子からして、かなりの酒を召しだのだろう。だから、おっしゃった通り早くお休みになりたいのだ…ああ、そうだ。そうに違いない。
大丈夫だ、ディルムッド。あのお方について行けば間違いはない。そう、ケイネス殿も言っていたではないか)
自らに言い聞かせるような、願いにも似たランサーの思いなど露知らず、疲れた体をさっさと休めようと足早に歩いていたイコは、宿近くでふと足を止めた。
「………ジル?」
「──おお、これはこれは、イコではありませんか!!」
イコの視線の先には、なぜか人気のない路地に佇む、キャスターの姿があった。
「貴女もここにいらしていたんですね。ジャンヌには、もうお会いになりましたか?」
「いや…というか、今回の聖杯戦争に、ジャンヌは参加していないよ」
「そんなはずはありません!まさか…貴女も記憶を改ざんされているのですか!?」
「は?」
いささか興奮気味なキャスターの言葉に、イコは目を点にした。
「実はジャンヌもそうなのです。ああ、聖処女は私のことを覚えていなかったのです。この、ジル・ド・レェを!!でもご安心ください。私が、ジャンヌとジャンヌの友人である貴女の記憶を戻して差し上げます」
「あ、ああ…そう、それは大変だと思うけど…まあ頑張って」
正直、眠くてあんまり物を考えたくなかったイコは、キャスターの言葉の意味を理解せず、ただその勢いにドン引きながら、てきとうな返事を返した。
「はい!ああ、そうとなれば早く準備をしなければ!待っていてくださいね、ジャンヌ、イコ!」
そう言って去っていったキャスターに、最後まで圧倒されっぱなしだったイコだったが、もうなんか色々とめんどくさそうなので、起きてから考えようと再び宿の方へと歩み始めた。