明々煌々
□宴のはじまり
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食事を終えて泰山を出たイコは、その後なぜかアーチャーとショッピングをしていた。
というのも。
泰山を出たイコは、マウント深山を散歩していた。
何かいいものがあれば、ケイネスの見舞いの品に買っていこうと思っていたからだ。
「イコではないか」
無難に花でいいか、と花屋を覗いていた時だった。
背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、そこにはアーチャーがいた。
流石にあの金ピカの鎧は着ておらず、現代に合わせてラフな格好をしている。
とはいえ、その鮮烈な存在感が通行人の目を引いているのは間違いない。
最も、本人もイコも気にしていないが。
「ギル」
「花を愛でていたのか?」
「弟子の見舞いに花束でも持っていこうと思ってね」
「そうか」
結局どのような花がいいのか思いつかず、店員に任せて花束を作ってもらうことにした。
出来上がるまで時間がかかるということで、近くをブラブラすることにした。
で、なぜかアーチャーがついてきた。
「ギル、何か用事はないのかい?」
「ない。無聊を慰めようと、散策していただけだ。そこでそなたを見つけたのは僥倖だ」
「そっか」
実はアーチャーが近くにいることは泰山にいるときから知っていて、この道を通るだろうと思って待ち構えていたとは一言も言わない。
懸念となる衛宮はキャスター陣営の拠点を探すために動き回っているし、他も同じようなことをしている。
となれば、ある意味監視のみで暇なイコは、かねてからゆっくりと話がしたいと思っていたアーチャーと接触しようと思ったのだ。
で、思惑通りにであった、というわけなのだが。
「む…でぇと、とやらでもするか」
「デート?なぜ?」
「でぇととは、親密な仲の男女がするものであろう。我とそなたならば、ちょうど良いではないか。夫婦であるのだしな!」
「…私妻じゃないけど」
ボソリといったイコの言葉は喧騒にまぎれて聞こえなかったのか、はたまた聞こえないふりをしたのか知らないが、とにかくアーチャーはイコの手をとり、歩き出した。
「行くぞ」
「はいはい…仕方ないね」
どうせ何を言ったところで聞かないだろう友人に、まあいいか、とイコは手を引かれるままについて回ったのである。
あっちへぶらぶら、こっちへぶらぶら、買い食いしたり、装飾品店を冷やかしたり(王の財宝を持つアーチャーからすれば、そりゃあ鼻で笑ってしまうようなものばかりだが)、なぜかアーチャーに服を買ってもらったりしながら花屋に戻ったのは、すでに日がとっぷりくれた後だった。
「ありがとうございましたー」
若い店員に見送られながら花屋を後にしたイコたち。
相変わらず手は繋がれたままで、周囲の人々は美男美女のカップルに感心のため息をついている。
「本当に良いのかい?服を買ってもらったのに、花束まで」
「そなたの弟子ならば、我の身内も同然。それにそんな花束の代金ごとき、我にははした金に過ぎん」
それもそうだ。
それこそアーチャーの全財産と比べたら、実に庶民的な値段の服も、ちょっとばかし豪華な花束も、砂漠の砂の一粒にも満たない価値しかない。
値段云々はさておき。
イコは、ケイネスを身内同然と言い切ったアーチャーに笑った。
というのも、先ほどから遠坂時臣がいかにつまらない人物か、アーチャーから聞いていたからである。
アーチャーにとって魔術師らしい魔術師が退屈だというのなら、ケイネスも間違いなく退屈な人間だ。
「…はは、多分ケイネスとギルの相性は最悪だよ。ケイネスは生粋の魔術師だからね。遠坂と似たような人間だ」
「ほう。それは随分とつまらぬ人間を懐に入れたのだな。そなたらしくない」
「そうかな?あの子は、魔術師としては優れているからね。私の技の一端を受け継ぐにふさわしい才能を持っている。それに、何かといじりがいがあって面白いよ」
「そなたがそういうのなら、それでいい」
そういえば、貴様は人を弄ぶのが好きだったな、というアーチャーに、イコは頬を膨らませた。
「人聞きの悪いことを言わないでくれよ。私は、私のやりたいように動いて、それに他人が反応を示してくれるのが好きなだけなんだから」
「ものは言いようだな」
クックッと喉で笑うアーチャーの脇腹を小突いた。
その後、なんだかんだでまだ別れ難かったふたりは、海浜公園へと向かった。
人気がないところにある、海が臨めるベンチに腰を下ろす。
夕日に燃えるような海と、ビルの影が黒々としている市街地が実に対照的だ。
そんな景色を堪能していれば、ふとアーチャーが、そういえば、と口を開いた。
「そなたに一つ問いたいことがあった」
「なに?」
「我の遺物についてだ。我が遺品のすべての所有権はそなたにあるはず。なのになぜ、時臣が我の遺物を所有していた?」