明々煌々

□彼女のはじまり
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万物にははじまりがある。

それが物体であれ生命であれ、あるいは事象であっても例外はない。

すべてには原因があり、過程(プロセス)を経て、結果が生じる。


今や生ける伝説として名高き“原初の魔法使い”イコにもまた、他者と同じくはじまりがあった。







***



この星がまだ雪と氷に覆われ、人々は小さな群れを作って細々と暮らし、神々さえも寒さに震えていた時代。



その男は、一族の呪い師だった。


呪い師としては凡庸な男だったが、遠見の才能だけは抜きん出ていた。

暇を見つけては地の果てまで見通し、雪と氷ばかりの世界にため息をついた。


ある日、男は火の山を見つけた。

そこは雪も氷もなく、むき出しの岩と

末娘として生まれたイコは、父祖より伝わる不思議な力を兄弟の中で最も強く受け継いでいた。

成長したイコは力を使う技術も抜きん出ていた。


当代の呪い師である父を凌駕するほどの才能は、代々男が担ってきたその地位を、慣例を破ってまで継ぐように決めさせたほどだった。


一族の者たちはイコを神より授かった“奇跡の子”と認め、



果たして、一族の中ですくすく育った子どもは、物心つく頃には天の声を聞き、獣たちをよく従えた。

その特異な力を惜しみ無く、愛する一族のために使った。

一族の者たちも、そんな彼女を愛し、崇拝する者もいた。


彼女に導かれた一族は、白銀の世界にありながら豊かで幸福な生活を享受することとなる。


しかし、すべては泡沫のごとき夢。

…悲劇はすぐそこに迫っていた。



イコが十五になった年、いつにもまして寒さの厳しい年だった。



その頃には、イコという奇跡は縄張りを隣する他の部族にも伝わっていた。


そんなイコを得んと、丘を一つ挟んだ向こうの部族が縄張りに攻め入ってきた。

イコの一族も、



もはや一刻の猶予もなかった。

イコは、早急に一族と自身を救わねばならなかった。


しかしながら、このときイコは無知であり無垢だった。

“見えざるものを見ること”と“聞こえざるものを聞くこと”――人の身にあまる奇跡は、それ以外の力を持つことを不可能としていた。


ゆえにイコは、揺らぐ大地に背を向け、天に祈りを捧げることしか出来なかったのだ。


とはいえ、地にありながら世界に背く力を、奇跡を宿す少女は、天に愛されていた。

否、愛され“過ぎて”いた。


――かくして、祈りは聞き届けられた。



まさに天啓――イコの力は、見えざるものによって増幅させられた。

その目は時間も空間も超え、事象すら見ることができる千里眼となった。

そして、「根源」を見通したのだ。



すべてを見通す目は、この世すべて理を、イコに知覚させた。

ゆえに、為すべきことを理解できたイコは、“受けとる奇跡”に“与える奇跡”を注ぎ、ここに最初の神秘を成した。


そして、神秘は具現化する。


一族は“星の理に合致する存在”に書き換えられ、イコもまた、奇跡でありながら神秘を成した者として、世界に受け入れられた。


とはいえ、彼女は人の身に余る力を振るったことで変質してしまったが。


しかし、大業を成した反動で大いなる休息を必要としていたイコには、その事実に気がつくはずもなく。



己の変異に戸惑う一族たちに囲まれて、イコの意識はゆっくりと静寂へと引き込まれた。
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