明々煌々

□はじまりのはじまり
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「おっと…」
「うわっ」


弟子の部屋からの帰り道、上機嫌で時計塔の中を歩いていたイコは、角を曲がったところで誰かとぶつかった。


「すまないね、大丈夫だったかい?」

「いや、こっちこそ前を見てなかったから…あ、論文が!」


ぶつかった小柄な少年は、衝撃でばらばらに散らばってしまった紙を、慌てて掻き集め始めた。


「手伝おう」


少年を手伝おうと屈んだイコは、論文の内容をちらりと見て、おや、と目を見開いた。


「少年、ずいぶんと面白い考え方をするんだね」


論文の一部であったが、手にとってふむふむと読むイコの手から、少年はあわてて紙を奪い取った。


「勝手に読むなよ!」


少々怒っているらしい少年に、朗らかな笑顔を浮かべながら謝った。


「すまんすまん。だが、その理論、途中から間違っているぞ?」

「えっ!?」


どこだ、と慌てて手元の文書を見やる少年に、親切にその箇所を指差して教えてやる。


「ここだよ。この解釈だと、その前に引用した理論と矛盾が生じてしまう」

「あっ、本当だ」

「まあ、着眼点は素晴らしいから、書き直せばいい論文になると思うよ」

「えっ、あ、ありがとう…って、名前を聞いていなかった。僕はウェイバー・ベルベット」

「よろしく、ウェイバー。私はイコ」

「よろしく。ところで、イコ…さんはここの生徒?僕と同じくらいか、少し上に見えるけど」

「ふふっ…同じくらい、ね。残念ながら、私は時計塔に所属していないんだ。今日は野暮用でね。
…おっと、私はそろそろ行かないと。飛行機の時間だ。では、失礼」

「あ、さようなら」


外套を翻し、颯爽と立ち去る後ろ姿を見送ったとき、ふとウェイバーは動きを止めた。


「そういえば、イコって“原初の魔法使い”と同じ名前だ…たまに時計塔に来てるって噂だけど、まさか…」


ありえないよな、と首を振ったウェイバーは、早速論文を修正するために図書室へと向かった。


ちなみにウェイバーは後日、その論文を提出したのだが、ケイネス講師からの評価は相当ひどいものだったとか。
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