明々煌々

□はじまりのはじまり
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それから数千年後。

倫敦、時計塔―――


「おや、珍しい。貴女さまがこちらにいらっしゃるとは。“弟子殿”に会いに来たのですかな」

「そうだけど…今の時間は、講義中かな?」

「ええ、あと10分ほどで終わりますが」

「うん。なら、彼の部屋で待たせてもらうとしようか」


頭を下げる老齢の魔術師に見送られながら、勝手知ったるとばかりに、足を進めるこの若き女性こそ、“原初の魔法使い”と名高いイコだった。

本人いわく、年齢は五桁を超えているという。

その真偽のほどはわからないが、魔法使いとして、最も古くから記録が残っているのは確かだ。


そんな彼女が、数年ぶりに時計塔にやってきた。

普段は自由気ままに世界を旅している彼女が、今日は自身の弟子であるロード=エルメロイに会いに来たらしい。


鍵が掛かっていたはずの弟子の部屋にいとも簡単に侵入すると、皮張りの大きな椅子に遠慮なく座った。


「ほー、相変わらず、我が弟子は優秀だ…あくまで、一般的な魔術師の範囲内で、だけど」


もう少し深淵に近づいてもらいたいものだけど、と手に取った資料を興味がないとばかりに机の上に戻し、背もたれにもたれ掛かった。


と、その時、扉が乱暴に開かれた。

閉めたはずの自室の鍵が開いていることに気付いたらしく、慌てて駆け込んできた弟子にイコはニヤリと笑いかけた。


「やあケイネス、久しぶりだね」

「イコ師匠(センセイ)!」


ケイネスは侵入者の正体を知って、安堵の息を吐いた。


「師匠、いらっしゃる際は連絡をくださいと申し上げているはずです。いきなりいらっしゃっても、きちんとおもてなしができませんからな」

「それは悪かった。至急、お手伝い願いたいことがあってね。実力があって信用できる人間が、君しかいなかったんだ。頼まれてくれるね?」


山より高い自尊心を持つ弟子は、“君しかいない”と言われて満足したようで、間髪いれずに大きくうなずいた。


「それは構いませんが、何を手伝えばよいので?」

「これだよ」


イコは左手の手袋を外した。


「これは…令呪!?」

「冬木の聖杯だよ。魔法使いである私でも役者になれるなんて、聖杯はよっぽど気前がいいらしいね」

「…棄権しないのですか?」

「聖杯にちょっとした用事があってね。ぜひ勝利を得たいんだ。協力してくれるね?」

「もちろんです。師匠の助手として、冬木にお供しましょう」


聖杯戦争への参加。

たとえマスターとしてではなくとも、“原初の魔法使い”の助手として参戦するというのだから、どれほどの名誉になるだろうか…!

尊敬する師の役に立てる喜びだけでなく、自らの栄達の足がかりとなるこのチャンスに、一にも二にもなく飛びついたケイネスは、イコの次の言葉に思わず固まってしまった。


「まあ…正確には、助手じゃなくて“マスターとして”参加してほしいんだけどね」
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