明々煌々

□余興のおわり
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間桐雁夜の慟哭をBGMに、鑑賞者たちは思い思いの感想を胸に抱いていた。


「フン、くだらぬ三文劇であったが、まあ初めて書いた台本にしては悪くない」


アーチャーは脚本家を振り返る。


「酒の味というやつは、思いのほか化けるものだ」

「クックック、お前もどうやら、見識を広める事の意義を理解し始めたようだな」


満足そうに嗤ったアーチャーは、腹心の友を振り返った。


「イコ、そなたはどうだ?」

「悪くはなかった。だが私好みではないね、終わり方が。私は“ハッピーエンド”ってやつが好きなんだよ」

「ふむ、お前も悪趣味なやつだ」

「知ってたでしょ。ってことで綺礼、君の台本は終わった。幕後は私の好きなようにしてもいいよね」

「構わんが、一体…」


不思議そうな綺礼に、イコはウィンクをすると、軽やかに階段を駆け下りていった。

ディルムッドも、主人の思惑を理解しているらしく、当然のような顔をしてあとに続く。


「ま、後日談はまたあとでお届けするよ。二人で反省会でも開いていなよ」


颯爽と去っていった主従に、アーチャーは喉を鳴らし、階下に転がる二人をみやった。


「あれほど悪趣味で、恐い女はいないぞ。綺礼」















教会から離れ、間桐雁夜はふらふらと思い出の公園に足を踏み入れていた。


「―――間桐雁夜」

「?」


涼やかな声が、名を紡いだ。

間桐雁夜が振り返ると、そこには月明かりに照らし出された美しい人が佇んでいる。


「心身ともに疲れているようだね、間桐雁夜」

「あ…」


するりと近づいてきたその人は、雁夜の引きつった左頬を優しく撫でた。


「君はよく頑張った。君のその切ない思いは、少しばかり報われてもいいと思わないかい?」

「え、あ…」


柔らかな声音に、雁夜の目に新たな涙が浮かぶ。


「“雁夜くん、あなたの努力も、優しさも、誠実さも…私はよくわかっているわ”」

「あ、おい…さん…」


イコが広げた両腕に、飛び込むようにその身にすがりついた雁夜は、その瞬間、首筋に痛みを感じるまもなく意識を落とした。


「はぁ…さて、ディルムッド。彼を“祭壇”までお願いできるかな」

「御意」


気を失った間桐雁夜はディルムッドに抱えられ、闇に紛れた二人によって件の洞窟に連れて行かれた。
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