刀剣乱舞

□バレンタイン
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『どうしよう…。』

そう呟く審神者の目の前にはガトーショコラがワンホール皿の上に乗っている。
今日は2月14日、世間ではバレンタインと言われる日だ。

朝餉の後皆には手作りの生チョコを配り、このガトーショコラも手作りで本命。だが審神者は本命チョコをまだ渡せずにいた。
時間はもう夕餉の後、あと数時間でバレンタインは終わる。

彼をいつ好きになったかなんて覚えていない。
太刀の中で最初に来た彼を戦でも本丸の生活でも頼りにしていたらいつの間にか好きになっていた。

『やっぱり、渡すのはやめようかな…。』

明るくて誰にでも優しい彼だ。
主として好かれていてもそれ以下でもそれ以上でもないだろう。
好きだと伝えても困らせるだけだ。
一応皆に生チョコは配ったんだ。
今年のバレンタインはこれでいい、と審神者は勝手に自己完結して、ガトーショコラの乗った皿を持って自室を出た。

味見した時は普通に美味しかったから捨てるのは勿体無い。
大広間に持っていけば酒飲み連中やら誰かいるだろうからそこにいるもの達にあげよう。

「あれ、主?」

『し、獅子王…』

ガトーショコラを持って大広間に向かう途中、運が良いのか悪いのか想いを寄せる男士、獅子王にばったり会ってしまった。

「何持ってんだ?」

『えっと、これは…。』

貴方に渡そうと思った本命チョコです!なんて言えるわけなく、何と言おうか言葉が詰まる。
そんな動揺を見せる審神者に獅子王の目はすぅっと細める。

「なぁ主、ちょっといいか?」

『え?!あ、うん…?』

頷いたのを確認した獅子王は審神者の腕を引き審神者が来た方、つまり審神者の部屋へと足を運ぶ。



押される様に部屋に入ると振り返った時には、すぐ後に部屋に入った獅子王が音もなく後ろ手で襖を閉めていた。

『獅子王?』

「ソレ、本命チョコってやつだろ?」

静かに低く声で言われ審神者は息を呑んだ。
無言は肯定。獅子王は「やっぱ、そうか」と呟く。

「誰のとこに持ってくつもりだったんだ」

いつも太陽の様な獅子王からは想像できない冷たい声だった。
今の獅子王は審神者を元気づける様な笑みはなく、苛立ちを見せている。

「山姥切、は違うな。和泉守、蜂須賀、鶴丸、一期、髭切、膝丸、小狐丸、三日月、それとも違う奴か。
なぁ主、誰に恋慕してんだ」

獅子王は審神者に遠慮なく思ったことを言ったりするが、恋愛面の事は一切今まで言ったことはない。
乱の様な女子?トークみたいな興味本位とは違う。
苛立ちを見せる獅子王はまるで嫉妬している様に見える。

『…あたしの好きな相手が気になるの?』

「気になるに決まってるだろ」

『どうして……?』

ほんの少しの期待を胸にそう口にしていた。
すると獅子王はあっさりと理由を吐いた。

「惚れてる女が誰に恋慕してるか気になるのは当然だろ」

夢じゃないよね。夢でもいい。夢なら覚めないで。

『獅子王に渡そうと思って作ったの…。
でも、獅子王にフラれるのが怖くて誰か適当にあげようと広間に持って行こうと思って…。』

「フルわけないじゃん。主が好きなんだぜ俺」

『…本命チョコ、貰ってくれる…?//』

恐るおそる審神者がそう聞けば先ほどまでの苛立ちは消えいつもの太陽の様な笑みを見せた。

「あったりまえだろ!」



ガトーショコラをフォークで一口刺して食べた獅子王はパァッと顔が綻ぶ。

「美味い!」

『ホント!?良かったぁ』

一応味見はして自分では美味しいと思っていたがそれでも少しだけ心配だったが美味いと言われて安心した。

「生チョコってやつも美味かったし、主意外と菓子作れるんだな」

『意外とは余計よ!』

審神者は料理が苦手なので厨当番は料理の得意な男士に任せているが、“意外と”と言われるのは地味に傷付く。

「主も一緒に食おうぜ!」

そう言いながらフォークに刺さったガトーショコラを向けられる。
つまり“あーん”だ。
短刀や蛍丸には審神者から“あーん”とする事はよくあるが、されるのはとても恥ずかしい。
しかし獅子王の厚意だ。
覚悟を決めて、だがやっぱり恥ずかしいので目を瞑って口を“あーん”と開ける。

しかし唇に触れたガトーショコラでもフォークでもなかった。
全く別の柔らかくて甘いものが重ねられた。

『んっ…!?』

ちゅっとリップ音と共に重ねられたものが離れて口付けされたと気付く。

『し、獅子王、なにして…!///』

「へへっ、隙だらけだぜ!」

ペロッと己の唇を舐めて意地悪な笑みを浮かべた獅子に審神者は完全に捕まってしまった。














終わり


 

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