銀魂

□【近土】拾い猫
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 こんな反抗的な猫をどうすればいいのか。
トシが居なくなった今、部屋の隅で睨みを効かせて
猫が睨んできやがる。
少しでも手を動かせば尻尾をびくつかせて逃げる準備。
こんなの、面倒を見れといわれても見れそうもない。
そっとしておくのが一番だろう。
書類も溜まって締切が近い。

 猫を背にして、書類に目を通す。
実をいうと、猫に構っている時間はない。
今日提出の書類は二十枚以上あるし、
明日は俺が見廻りなのに関わらず、
さらに増して書類は三十枚。
鬼のような生活に三十路近い俺は着いていけなくなりそうになる。
眠気とイライラを乗り越える単調な毎日にストレスを感じる。
正直、こんな書類ばかりに目を通す日ばかりなら、
昔みたいに、素振りばかりしている生活の方が良かった気がする。

 ……猫は、どうなんだろう。
ずっと拾われないで屯所前に居たのは、どう思っていたんだろう。

「…………」

 気になって猫を見る。
びくりと肩を動かして上目遣いで俺を睨む。
手を動かすと、やはり威嚇をする。
その姿がどうも初めて見るように見えなくて、興味が湧く。

「なんか、見たことあんだよなぁ〜」

 どんな相手にも威嚇をして誰も信用しない。
信用出来るのは自分の力だけ。
一匹狼のように己を貫く。
そんな奴、うちにも居たっけな。

「よしよし、俺は怖いか〜」

「シャァアア!!」

 猫の頭を撫でるとすかさず猫パンチに引っ掻き。
俺の手は猫の傷で一杯になる。
それでもひょいと両手で軽々と猫を持ち上げ、自分の胸に持ってくる。

「ニャア! ニァァアア!!」

「はいはい、よしよし。そのうち眠くなって来るさ。一人じゃ寒いだろ」

 利き手で筆を持ち、空いている手で猫の頭を撫でながら
胡座をかいている太股の上に乗せる。
撫でている手を振り払おうと爪を立てて俺の手に刺して来るが、
動じずに撫でるのを繰り返す。

「眠いなぁ。ずっと外にいて寂しかったろ。寒かったろ」

 太股に付けていたカイロが猫の体温で温かくなる。
猫もカイロで温まってきて、気持ちよくなったのか、
目を虚ろにして、眠そうにしていた。

「トシが帰ってくるまで、俺で我慢しような〜」


***


「近藤さん! 大丈夫か!? 猫は!?」

「しーっ、静かに。今寝てんだから」

 夕方になり、息を荒げてトシが帰ってきた。
障子を思いきり開けるもんだから、
急いで口に人差し指を当てて「静かに」と合図をする。

 猫はあれから俺の太股の上で寛いでそのまま夢の中。
たまに寝言でゴロゴロ言っているから、
多分打ち解けられたと思う。

「……なんだよ。いつからそんな仲良く」

「へへっ。お帰り」

 溜め息を吐いて、俺の横に座ったトシの頭を撫でる。
撫でると、トシは顔を真っ赤にして俺の手を掴む。

「なっ、なんだよ、近藤さん。俺は餓鬼じゃねぇぞ!?」

「はははっ! 似てると思ってな。バラガキ!」

 俺が笑うと、トシは目線を外に逸らす。
外は雪が強くなって、大粒の雪が見えていた。

「……ふぅ。ストーブぐらい、出すか」

「え、マジで!? トシ!?」

「……寒ぃからな」

 降り積もる銀世界の雪が、その時だけ止まって見えた。


「本当に似てるな。……トシ」







fin.
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