銀魂
□【近土】拾い猫
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「……すまん、近藤さん。廊下を走っちまった」
「そんなに肩を落とすなって。誰にだってあることさ」
「いや、廊下を走るなと俺が言い出したことだ。
約束を守れないなんざ、武士の恥だ。士道不覚悟で切腹を――」
「いや、いいから。廊下を走って切腹とか聞いたことないから」
トシは本当に真面目だな。悪くいえば頭が硬いんだが。
それにしたって、トシが廊下を走るんだから、
それなりの理由があるんだろうな。気になる。
「トシ。それじゃ、なんで廊下を走ったんだ? なんか急ぎ事か?」
「……そりゃ、まあ、そうだが」
「俺に言えないことか? 勲、寂しいなぁー」
「なっ……! 止めろその口調! 気持ち悪ぃ!」
「あーあ、勲もっと傷ついちゃったなー。
教えてくれなきゃ傷癒えないなぁー」
「柄でもねぇことだよ。どうせ笑うだろ」
トシをはぐらかすのはそこまでにして、と。
照れて刀を取り出されたら流石に大変だからな。
もう、わかってるから。聞こえてるから。
「……んで、その猫ちゃんはどっから拾ってきたんだ?
さっきからニャーニャーすんげぇ啼いてるけど」
***
トシの腕に頭を擦り付けている黒猫。
どうやらトシに懐いているらしい。
生まれてからそう経っていないぐらいの大きさ。
多少手が大きいと言えど、
トシの手に収まってしまう程小さかった。
栄養失調か。
「はははー! トシが猫なんざ、本当に柄じゃねぇなぁー!」
「……っ。だから言いたくなかったんだよ」
「冗談! 冗談だよ!
それで、改めて聞くが、どこで拾ってきたんだ?」
「屯所の門の前にダンボール箱が置いてあって、
そこに入っていたよ。頭に雪が積もってたから持ってきた」
「それは可哀想だな。よくやった、トシ!」
そういいながら、俺は落ち着いた黒猫に手を伸ばし、
頭を撫で――――
「シャァアア!」
「いでっ!」
……あれ、なんだ? この猫。
ちっとも俺に懐かない。
それどころか、嫌ってるっぽい。
俺、なんもしてねぇのに。
トシを見ると、オロオロとしていた。
猫が反抗したから
俺が外に戻してこい、とでも言うと思っているのか。
俺もそんなに鬼じゃない。
「なんだよ。トシにしか懐かねぇのか?」
「……すまん、近藤さん」
「気にすんなって。お前がやったわけじゃねぇだろ」
「いや、違うんだ。
俺、これから見廻りだから、
近藤さんにコイツを預けなきゃならねぇ。
……数時間で戻ると思うんだが」
「……えっ」
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