メインディシュ

□両片思い
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「カノン、貴女が好きなの。」
仄暗い基地のステージの上。雷蔵が切なげな声で言った。私の耳はその声をしっかりと拾ってはいたが、頭が理解するのに数秒かかった。その上「へぇ?」という情け無い声まで漏れてしまった。これは……所謂告白というやつなのだろうか。この時間は、基地にいるのは私との声の主である市橋雷蔵だけなので他人に知れるというリスクは無い。私は未だに状況を飲み込めないでいた。彼というべきなのか、彼女というべきなのか。雷蔵は身体は男性性なのに心は女性性だった。少しでも男らしさを消すためなのか、顔には化粧が施されている。化粧なんてしなくても充分に美しかったが、本人は化粧というものを愛していたし、元々の性を嫌っていた。
「……わ、わたしもすきよ?」
いまいち情報処理が追いついていないまま答えた。雷蔵の好みはハンサムな雄々しいクールガイのはずだ。何度も私に語っていた。……ということは、雷蔵は私のことを友達として好きなのだろう。そう解釈した。少し間が空いた。雷蔵は何も言ってこない。
「雷蔵?」
まっすぐ前に向けていた視線を、雷蔵の方に向けた。そこには、今にも泣きそうな美少年の顔があった。
「そういう、意味じゃないのに。」
雷蔵の口が動いたかと思うと、一瞬視界が暗くなり、息が止まった。今度は一瞬で理解できた。唇を奪われたのだ。短い静寂。ちゅ、という小さなリップノイズと共に唇が離れる。口が離れたのに息ができない。
「……あっ」
雷蔵はハッとしたように私に背を向け、一目散に基地を飛び出していった。現実を確かめるように、顔に手をやると頬が濡れていた。雷蔵の涙だった。
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