メインディシュ

□Injection 3
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不思議な浮遊感。この感覚は何年ぶりだろうか。
倦怠感がひどい。
ああ、最近のピンキーパイは薬にハマってたんだっけ。おばかさん。
「ピンキー、早く羽拾って。」
「……ごめんね、はい。」
前回までの事とは訳が違う。
今回はもう後戻りができない。ピンキーパイは本当に馬鹿だ。
元々は私が表だったのに、あの子は私……ピンカミーナを第二の人格にして、心の奥底に追いやってそのまま忘れた。
だからピンキーは私のことを認知していない。
羽を全て拾い終わると、フラタシャイがレインボーダッシュだったモノを担ぎ、溜まり場まで飛んだ。
私は羽を抱えながら必死に後を追う。
数年間見ない間に、私の知るフラタシャイは何処かへ行ってしまったようだ。

溜まり場の前で、トワイライトがラムネのようなものをガリガリとかじっていた。
以前見た時とは比べ物にならぬほど虚ろな目をしている。
ということは、ラムネではないようだ。きっとピンキーが使ってたのと同じ薬か何かだろう。
本当に世界が180°変わっている。
ピンキーの奴、もし顔を合わせる機会があれば八つ裂きにしてやりたいところだ。
勝手に隅に追いやった上に尻拭いさせた報いを受けさせてやる。

この日は、ほぼ一日中フラタシャイに連れ回された。
精神がガラリと入れ替わったせいなのか、身体は不調を訴えていたが薬が欲しくなることは一度も無かった。
日が暮れる頃にようやく解放され、別れ際に報酬として白い粉が入った袋を数枚渡された。しかし、ピンキーではない私には必要ない。
受け取ったものの使う気は無いので路地裏に伸びていたメスのジャンキーに100ビッツという格安で売ってやった。
「……ピンキーは何処で寝てるんだろ?」
ジャンキーになったあいつはもはやシュガーキューブには居ない筈だ。
となると、溜まり場だろうか?
だが、あそこにいるといつ薬をやらされるかわからない。
私までああなるわけにはいかないのだ。
しかし、身の回りのものが何処にあるのかわからない。溜まり場に戻るしか無いようだ。

溜まり場に戻るとフラタシャイは居なかったが、代わりにトワイライトが玄関の前でひっくり返って眠っていた。そういえば、スパイクはどうしたんだろう。
ラリティやアップルジャックも見えない。
「……面倒ね。」
とりあえず溜まり場の中を徹底的に探すことにした。
入ってすぐの、トワイライトが眠っている部屋はがらんとしていて何もなさそうだったが、ピンキーのものらしい、見覚えのあるショッキングピンクのバッグを見つけた。キューティマークの風船の刺繍に大きくバツが付けてある。
中を開けると、白い粉が入った袋が丁寧に7枚ほど保管されていた。
私はそれを全て抜き取って床に置いた。
幸い袋に穴は空いてないようで白い粉はバッグに付着していなかった。
袋の他には古い懐中電灯、ビッツの袋、未使用の注射器が入っていた。
ピンキーはまだ注射には手を出していないようで、肌を探っても注射器痕は見つからなかった。
私は別の部屋の捜索を始めた。
向かって右の部屋はトイレ。異臭がすごい。ほとんど使っていないようで掃除された痕跡が見つからなかった。中に入る必要性を感じなかったのですぐにドアを閉めた。
左の部屋のドアを開けると、短い廊下に繋がっていた。
すぐ手前にドアがあり、そこにとても下手くそな字で大きく「plky」と書いてあった。「pinky」と書きたかったんだろうが、きっとラリっていたんだろう。
ドアを押し開けると、独特な匂いが鼻をついた。ピンキーがやっていたのは多分大麻やハシシュだ。
思ったより部屋の中は汚れておらず、ビッツがそこそこ入った袋があったのでそれもバックにしまった。
古ぼけたベッドに腰掛けるとギシリと怪しい音がした。
布団から独特の匂いが漂ってくる。トイレ程ではないが居心地は良くない。
音が出ないように窓から外に出た。「……ラリティとアップルジャックを探そう」
きっともう、ピンキーパイが表に出てくることは無い。彼女は壊れたのだ、パーティポニーはもう居ない。
そして、フラタシャイにもトワイライトにも合うことは無いだろう。

「友情って、すごく脆いのね。」

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