メインディシュ

□時計と心臓とそれからそれから
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午後10時。時計の針の音がやけに大きいような気がした。身体を丸め、なんとか寝ようと努力するも緊張で身体が強張って寝付けなかった。また顔の影が濃くなってしまうんじゃないかとくだらない心配をしていると、暖かいものが背中にくっついた。
「ひぃ!?」
驚いて、情け無い声が出る。暖かいものの正体は、僕の彼女だった。
何故、中学生という身分で彼女と二人でベッドインなんていうませたことをしているのだろうか。ことは数時間ほど前に遡る。
初めての二人きりのお泊まりに浮かれ、僕と彼女は頬にキスをしてみたりハグをしてみたりとそれなりに甘い時間を過ごしていたのだが、時間というものは楽しいことをしているとあっという間にすぎてしまうもので、いつの間にか寝る時間になっていた。
そこで、
「僕どこで寝たらいい?」
と彼女に聞いてみたら、恋人同士なんだからとかそんな理由で彼女が普段寝ているベッドへ引きづり込まれてしまった。ご両親は仕事の都合で出張らしく、本来なら彼女も付いていくはずだったのだが彼女は友達とパジャマパーティーをすると言い張って譲らなかった。もちろんパーティーに呼ばれたのは僕ひとりで、実際のところパーティーというよりはお泊まりな訳なのだが。
そんなことを回想していると、彼女の腕が僕の腰に巻きついてきた。
「ま、待って! ちょっと!」
驚きのあまり声が出た。彼女の口が僕の耳元に寄せられるのが分かった。彼女の声で、鼓膜が震えた。寂しいよ。確かにそういったのが聞き取れた。
「……だって、ちょっと早いよ……」
彼女は恋人同士だから問題ないとか、もっと積極的になって欲しいとかそんなことをぽつぽつと囁いた。何とも切なげな声だった。提案というより、お願いするような声に、僕は顔が熱くなった。
「でも…………ひぁ!」
口答えは無用とばかりに耳が齧られる。甘噛みと彼女の口内の熱がくすぐったい。彼女は僕にどうしても「はい」と言って欲しいのか、そのまま耳を噛み続けた。僕は仕方なく情け無い声で「わかったから」と返事をした。行動で示せという旨のことを言うと、彼女は口を離した。
時計の針の音と心臓の鼓動の音がさっきよりもうるさく響き出す。しかし、それらはいつのまにか僕らが交わすキスの音に混じって消えてしまった。

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