メインディシュ

□幻想
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しんしんと降る雪が窓を濡らしている。
その様子をジャイボは、腹立たしげに見つめていた。
窓の外は暗闇に染まり、見えるのは街の明かりだけだった。
「ゼラ…」
愛しい人の名前をひとりつぶやく。しかし、その人は昨日も今日もジャイボに触れてはくれなかった。
大方、少女を捕獲する作戦がうまく行っていないせいだろう。
彼のいらつきがわからない訳でもなかったが、単純に納得がいかなかった。
あれだけ自分を美しいと、愛していると言ったのに。
涙が一筋、頬を伝って落ちた。
「ゼラ……こんなに愛しているのに……ゼラ……」
どろどろとした感情が腹の底で渦巻いているのが分かる。
顔を両手で覆って嗚咽する。
止めたくても、涙は簡単には止まってくれなかった。



どれくらい時間が経ったのだろう。
先刻よりなんだか身体が冷えているようだった。
ゆっくりと身を起こし、そのままベッドに潜り込み、強引に夢の中へ入ろうと目を瞑った。
瞼の裏に浮かんだのは愛する彼では無く、眼帯を肌身離さず身につけている少年、ダフであった。
(……またか……)
心の中で舌打ちをし、ダフのイメージを消そうとするが簡単には消えてくれなかった。
長い睫毛、白い肌、印象的な坊主頭。
カネダやタミヤ、ニコと共にいる時の笑顔、ゼラに叱られた時の青ざめた顔、先生から補修を言い渡された時の不満げな表情。
「なんで……」
心の声がつい口に出てしまう。
身体を丸め、両手で耳を塞いで無理矢理にイメージを打ち消そうとしたが、気を抜けばすぐに元通りになってしまう。
(……サイアク……)
結局、無意識のうちに夢の中に落ちるまで、ジャイボはずっとダフのイメージを打ち消すことができなかった。



翌日。
光クラブのメンバーは、ライチが少女を連れてくるのを思い思いの方法で待ち続けていた。
ある者はチェスに興じ、ある者は話題のアイドルの話しに話を咲かせている。
そんな中、ジャイボは無意識にダフを見つめていた。
ダフはどうやら恋人のニコとじゃれあっているらしく、大きな本を二人で身体をくっつけて覗いては顔を見合わせていた。
不意に、ダフが本から顔を上げた。
その瞬間、ジャイボとダフの目が合い、ジャイボはようやく自分がダフを見つめていたことに気づいた。
ダフはすぐに目を逸らしたがジャイボは何と無くダフに目を奪われていたのが許せなくなった。
(なんで、あいつなんかに……)
ゼラとうまくいっていなかったこともあり、きつい表情でダフを睨みつける。
周りはそれに気づいていないようだ。
睨まれている本人、ダフを除いて。
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