読み物

□それが告白というならば。
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 本日四月一日。
 一般的にはエイプリルフールとしての知名度の方が堀鐔学園高等部ではとある仲の良い四人の生徒達の誕生日として知れ渡っている。
 侑子理事長が直々に誕生パーティーを開き、四人の誕生日を少人数ながら華々しく祝ったのは言うまでもない。この学園の理事長は、祭りやお酒の呑める場をとても好む。
 勿論いつものように四月一日は皆の分の料理を作らされていた。だが、小狼と小龍にも手伝ってもらい、しかも女子の麗しいウエディンドレス姿まで見ることが出来たのだ。ここで死んでも悔いはあるまい。
 しかし楽しい時間にも終わりは来るもので、時計の針が六時を指す頃にはパーティーはお開きとなった。
 後片付けは教師がやるからと、渋る生徒達を帰らせる。その場に残るのは楽しかったパーティーの余韻と、まだ少し肌寒さを感じる春の風。
 効率の良いユゥイ先生と、力仕事が得意な黒鋼先生がいたので後片付けは予定より早く終わった。その様子を見ていた侑子理事長の顔が一瞬陰る。彼女の普段の陽気な性格には似合わない表情だった。
 過ぎ行く時間に「魔女」とよばれる侑子理事長でも、想いを馳せることはあるのだろうか。
 形のいい唇を細い指がなぞる姿は、持って生まれた侑子理事長の美しい顔立ちをより際立て、官能的に見せた。と、にぱっといつもの明るい笑みに表情が変わる。
「やっぱり、呑み足りないわねぇ」
「あれだけ呑んでおいてかよ?!」
 侑子理事長一人で一体何本の酒を空けたのか。黒鋼先生は怖くなって、途中から数えることを止めた。世の中には知らなくてもいいことがある。
「これから皆で呑みに行きましょうよっ。ノミニケーションよ、ノミニケーション! .......呑みに行かないとどうなるか、分かっているわよね?」
 うふふ、と可愛らしく微笑みながら侑子理事長は黒鋼先生を脅す。待ち受けるのは減給だろうか、はたまた。
 ユゥイ先生はといえば、辺りを頻りにきょろきょろと見回していた。常に冷静な彼らしくない素振りに、黒鋼先生は首を傾げた。一体どうしたというのだろう。
「どうかしたのかしら、ユゥイ先生?」
「あ、いえ、さっきからファイの姿が見えないのでどこに行ったんだろうと思って。ファイ、こういう後片付けの時はいなくなったりしない筈なんですけど.......」
 ファイ先生とユゥイ先生は性格が似ていないと思われがちだが、そうではない。確かにユゥイ先生はファイ先生程冗談は言わないが、根が真面目な所や本心を隠す所がよく似ている。
 なのでユゥイ先生同様真面目なファイ先生が、後片付けを放棄してどこかに行くことなど、普段ならば考えられないことなのだが。
 一人何もかも分かったような顔をして、侑子理事長は傍若無人な態度で、
「黒鋼先生、探してきて頂戴。呑み会には綺麗所が多い方がいいでしょう」
「はぁ?! 何で俺が? てかこりゃ何だ?」
「いいのよ、さあ捜してきて」
 一体ベールを何に使えばいいか分からないまま、渋々黒鋼先生はファイ先生を捜しに行った。
「貴女なら、ファイの居場所が分かっているんじゃないんですか?」
「あの子達が自分自身で解決することに意味があるのよ。あたしはただ、それを見守るだけ」
 落ち着いた優しい目をする二人は、焦ったように駆け出す黒鋼先生の後ろ姿を見る。互いに顔を見合せて、素直じゃないひとだと苦笑した。
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