読み物

□しゃるうぃーだんす。
1ページ/4ページ

「しゃる、うぃーだんす?」
 古い文献に記してあった言葉。これは異世界の言葉。
 ファイの横に座り、熱心にその言葉が記されていた本を、チィは読んでいた。幾度も幾度も一部分だけを指でなぞり、その文章だけが磨り減ってしまう程に。
 二人にだけ分かる言葉でダンスのお誘いを受けたファイは、思わず苦笑して顔を歪めてしまう。その台詞は本来男性のものであるというのに、女性から言われてしまい、ファイの立場はまるでない。
 おまけにチィは、ファイの座る豪奢な椅子の前に跪いていた。鏡のように磨かれた床に、セルリアンブルーのドレスと亜麻色の髪が広がりとても美しい。しかし、舞踏会中のルヴァル城内では多くの人の目を引いてしまう。
 アシュラ王にファイが視線を向けると、手で口を覆いらしくもなく笑いを漏らしている王は、「行ってきなさい」とでもいうようににこやかに笑んだ。
 ファイは、差し出されたチィの自分より小さな手を取ると、その手の甲に軽い口付けを残した。大勢の視線が二人に集まる。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ