読み物
□他意はない、はず。
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「小狼くーん、味見してみてー」
台所からファイは小狼を呼んだ。甘いにおいがふわふわと部屋の中を漂っている。いつもの味見役であるサクラやモコナは丁度出払っていて、家にいるのは小狼と黒鋼とファイだけだった。
小狼からの返事が無かったので、ファイはもう一度「小狼くーん?」と先程より声を大きくしてみる。ファイが台所に行く前に見た時には小狼は一階のリビングにいた筈だ。聞こえないということは、ないと思うのだが。
はて、と首を傾げながらファイはリビングに向かった。生真面目な小狼ならば聞こえていて無視をすることは有り得ないので、もしリビングにいないのならば二階にいる黒鋼に味見を頼もう、とファイは考える。
「あー。小狼君、本読んでたのかー」
小狼はリビングのソファーに腰掛け、先日この世界で買った本を読んでいた。読書中くらい寛げばいいのに、やけに背筋を伸ばして姿勢がいい所が小狼らしかった。
「ファイさん。一体どうしたんですか?」
ファイが側に立ったことでようやく小狼は、本から顔を上げた。どうやら買ってきた本は当たりだったようで、小狼の口許は微妙に緩んでいる。
「えっとねー、小狼君にクリームの味見頼もうと思って〜」
クリーム持ってくるね、とファイは白いエプロンを翻し、台所に向かおうとする。小狼が立ち上がり、その成人男性にしては細いファイの腕を掴んで引き留めた。
「ん〜、どうしたの?」