読み物
□彼はまるで雪のようで。
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雪が降っているとファイが気が付いたのは、朝やけに冷え込んでいたからだった。
日本国で迎える初めての冬は、彼が知るよりも遥かに暖かい。だが、雪というのはどこでも変わらぬようで、縁側に立って見る雪はセレス国のものと同じだった。
郷愁に浸り、白く染まる庭をしみじみとファイが見ていると、奥の部屋から黒鋼が出てくる。羽織を着ていない薄着のファイに、黒鋼は自らの黒い羽織を着せる。
「寒くないよ。後、大きい」
憎まれ口を叩くファイの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した黒鋼は、庭の雪とファイを見比べて一言、「雪みてぇだな」と呟いた。
黒鋼の武骨な手が、ファイの白い頬に触れる。くすくすと笑いながら、ファイは黒鋼の手を自分の手で包み込んだ。
「雪って白く見えても、思ったより汚いよー? それとも何、そこが似てるってことかな」
いつも深い黒鋼の眉間の皺がより一層深くなった。顔付きが凶悪、気に入らなさそうなものに変わる。拳骨を喰らわせられると思ったのか、ファイは小さく身を縮めた。
「 」
軒下に雪が落ちる音が、黒鋼の低い声に重なる。聞き取れなかったファイが慌てて聞き返すと、黒鋼は顔を反らして、
「何でもねえ」
と答えた。余程柄にも無いことを言ったのか、頭を掻きながら部屋の中へと戻っていった。
「教えてくれたらいいのに。まったく.......黒様ったら子どもなんだから」
そう囁くファイの口は綻んでいた。目を細めて、幸せそうな表情を浮かべながら黒鋼の後をファイは追う。
雪の降る音にファイは思わず後ろを振り向いた。ある筈のない幻の像がそこに現れて、直ぐにかき消える。
ファイは苦しそうな顔をするが、それも直ぐに笑顔に変わる。
辛い記憶が蘇るだけの雪も、黒鋼との想い出が塗り替えるように。きっとファイにはこれから幸せな想い出だけが積もっていく。