読み物

□待ち合わせにて。
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「ファイ先生遅い.......」
 チィは寒空の下、一人呟いた。
 彼女が発した言葉には誤りがある。ファイが特別遅い訳ではなく、チィが待ち合わせ時刻よりも早く、待ち合わせ場所に着いてしまったのだ。
 学校から遠く離れた街の駅前、チィはそわそわしながらファイの到着を待っている。道行く人の視線を、チィはその愛らしい容姿で集めているのだが、本人は全く気付いていない。
「チィちゃん!!」
 駆けてくるファイの姿を見つけ、チィは顔を綻ばせ嬉しそうにした。
「ごめんね〜。、チィちゃんより早く来るつもりだったんだけど.......。チィちゃんのこと、待たせちゃったね〜。格好悪いなぁ、オレ」
「ファイ先生は格好良いよ! 凄く、とっても!!」
 と、面と向かってチィが言うものだから、ファイは思わず目を反らしてしまう。こうして正面からものを言われるのを、彼は苦手としている。
 そこで彼の目は、漸く落ち着いてチィを捉えた。
「チィちゃん、いつもと雰囲気違うね〜。髪型とか服装が違うからかなぁ?」
「うん。フレイヤが手伝ってくれたの。チィはフレイヤみたいに、こういう格好似合わないけど.......」
 チィは曖昧な笑みを浮かべ、自らの姉の名前を出した。
 いつもとは違い横に流した前髪や、落ち着いた服装がチィの印象を変えて見せる。ファイはチィの謙遜の言葉に目を細めた。
「チィちゃんにその格好が似合ってるかどうか、オレは分からないけど。ただ、可愛いなぁって思うよ」
 チィはファイのこういう所をずるいと感じる。ファイ自身は大抵のらりくらりとどんな言葉もかわしてしまうというのに、こうして人を褒めるのは何だかずるいとチィは思う。
 赤くなった顔を隠すように持っていたバッグを顔の前に持ってきたチィを見て、ファイは優しくその頭を撫でた。
 やはりチィは、ファイはずるいと思う。
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