なんでだろう、涙が(ヒロアカ)
□恐怖と焦燥
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走って、走って、走って。
途中でオールマイトと会って、やっと雄英までたどり着いて、そしてまたUターンして。
再びUSJに辿り着いた時にはもう体力の限界を超えていた。息が切れる。私の個性は使えば使うほど体力を使うタイプのものだ。こんなに長時間使ったのは初めてだと思う。
最後疲れ切っていた私はプロヒーローたちに先に行くように言って、少し後に到着した。
「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」
入り口を開けると飯田くんが高らかに宣言する声が聞こえた。それに答える歓声。
扉を掴んで体を支え、せり上がって来る吐き気も無視する。
よかった。よかった。
「七瀬ちゃん!」
中に入って来た私に気がついた麗日ちゃんと芦戸ちゃんが心配そうな顔で駆け寄って来る。
「ね……お父さ、んは?」
「お父さん?」
麗日ちゃんが不思議そうな顔で首をかしげる。その間でさえ、じれったくて待っていられない。
歩き始める。
麗日ちゃんに支えられていないと、足が震えてうまく立っていられない。
怖くて、怖くて。
でも、なんでもない顔して、体力なさすぎだろって笑って言ってくれるような気がして。
そうであれって、心の底から祈った。
障子くんの背中に背負われた黒い男。
「お父さん!」
もう一歩も歩けないと思った足が、瞬間移動を可能にする。
障子くんの目がまん丸に開かれて、でもそんなこと気にもならない。
筋肉が見えるほど崩れたように傷ついている肘や、変な方向に曲がっている腕。髪の毛にべっとり着いた血。顔はうな垂れていて見えない。
「ね、ねえ、ね……お父さん、へんじ、して」
声が震えて、仕方がなかった。
お父さんに手を伸ばした。でも触れる事は出来なかった。触った手がすごく冷たかったらどうしようって思った。
「お父さん、なんで……いやだ、いや、嫌だよ。返事してよ、お願い、お願いだから!」
周りの人たちが私の名前を呼んでいることに気がついて、でも答えられない。
喉の奥がグッとしまったように苦しくて、息ができない。
ああ、死ぬのかもと思った。その方が幸せかもしれないと思った。
「七瀬ちゃん」
ミッドナイトが私を抱き寄せる。眠り香が鼻をついて、深い眠りに導かれていく。