なんでだろう、涙が(ヒロアカ)

□ヒーロー殺し
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轟くんの炎が、男を襲う。奇襲攻撃だった。
 
 しかし、男はそれを簡単に避けた。
 轟くんが、左側の炎を使った姿を、私は生で初めて見た。場違いな感想だが、とても綺麗だった。
それにしても、この男、ものすごい反射スピードだ。


ヒーロー殺しはエンデヴァーさんに知らされた容姿のまま、そこに立っていた。私たちを品定めするような、気持ちの悪い表情を浮かべている。

私はマニュアル通り、状況把握に努める。まず人数。敵は見た感じヒーロー殺し1人。しかし脳無などと組んでいる可能性が高い。つまり、敵は集まってくる可能性もある。
対して、こちらはパッと見た感じ、私と轟くん、緑谷くん、そして飯田くん、ヒーロー2人という6人だ。


「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ。数秒意味を考えたよ。一括送信で、位置情報だけ送ってきたからな」

「轟くん、相澤くんまで……」
「なんで君達が……?それに……左……!!」

「なんでって、それはこっちの台詞だ」

本当だよ。一括送信で位置情報だけ送ってきた。緑谷くんの性格を考えると、説明がないのは説明をする時間がなかった……つまり、緊急事態だってことだ。

「ピンチだから、応援呼べってことだろ」

轟くんも同じ思考をしていたらしい。

 それにしても飯田くんは、なぜいるんだろう。この二人は同じ事務所に行ったんだっけ?まあ、どうでもいいか、今は。

轟くんは氷で倒れているみんなをこちらに引き寄せ、同時に炎でヒーロー殺しを攻撃した。さすが個性使い慣れてるなぁ。

「大丈夫!数分経てばプロも到着する!」

私がヒーロー殺しに聞こえるように叫ぶ。これで少しは余裕をなくしてくれると嬉しいけど。

「轟くん、ちょっと時間稼いで」
「わかった」

ヒーロー殺しを轟くんに任せ、轟くんが氷を使って引き寄せたみんなの様子をヒーロー殺しに注意を払いつつ観察する。

まず緑谷くん。彼はほとんど傷を負っていない。しかし彼がいうようにヒーロー殺しの個性効果により身動きが取れないそうだ。
 飯田くんも肩はひどい怪我だが、緊急を要するほどではない。出血量もひどくはない。

しかし問題はヒーロー2人だ。特に女の方はひどい傷だ。男の人は腹から血を流しているが、出血量はそこまででもない。
 女の方も腹から血を流しており、出血量が一目で多いと分かる。肌は蒼白で、冷汗が出ている。脈拍が弱い。そして、意識がない。
 出血性ショックという文字が頭をよぎる。








「相澤っ!!あぶねぇっ!!」

轟くんの声にハッと振り向くと、ナイフが目の前に合った。反射的に手でそれを落とす。
ナイフで指を切ったのか、痛みが走る。

「敵を目の前にして油断するなんてなってないな……」

ヒーロー殺しがぐっと間を詰めてくる。

 私は反射的に、自分の太ももに手を伸ばす。金属の冷たさを感じる。

飛べと念じる前に、その金属の棒はヒーロー殺しの元へ飛んで行っていた。突然のことに驚いたのか、ヒーロー殺しは私から距離をとる。その隙に轟くんが氷で壁を作った。

先日届いたばかりの金属の棒だ。個性を使ってとばせばなかなかのものになるはずだと思ってはいたが、数回練習してみた感じ命中率はかなり低かったはずだ。偶然狙ったところに行って、ラッキーだった。

「ごめん、油断した」
「いや、時間稼げなくてすまねぇ。怪我人は?」
「…….1人、あそこの女の人。出血性ショックを起こしてるかも」
「止血できねぇか」
「簡易的なのは。でも、もしかしたら内臓を傷つけたのかもしれない。そこまで判断できない」

一刻も早い治療が必要だ。でも、この状況で……

「己より素早い相手に対し、視界を遮る……愚策だ」
ヒーロー殺しの声がするのに、轟くんが炎を出して対抗しようとする。

しかし、ヒーロー殺しは轟くんの行動を読んでいたのか、氷の壁の上からヒーロー殺しの姿が見えた。

「轟くん、上!」

声よりも早く轟くんの方へ二本のナイフが飛んでいく。撃ち落そうと太ももに手を伸ばしたその時には目の前にヒーロー殺しがいた。
 
 私の方が狙いだ。

 と気がついた時には長い刀が私の顔を狙っていた。刀はしゃがんで避けたが、蹴りを腹に入れられて吹っ飛んだ。
体が中に浮く。ぐっと胃液が迫り上がる感触。ガッシャーン、とひどい音を立ててドラム缶にぶつかった。



「相澤さんっ!」

体を支えられ、緑谷くんが私を抱えたままヒーロー殺しと距離をとって、轟くんのそばに立った。

「相澤さん、大丈夫?」

緑谷くんの問いかけに頷きつつ、口元を抑える。口の中が気持ち悪い。

「緑谷くん、動けるの?」
「なんか普通に動けるようになった」
「時間制限か?」
「いや、僕は最後にやられた」

緑谷くんが、人数の多さか摂取量、もしくは血液型だろうと考察する。

それを受けて、ヒーロー殺しが血液型による差異だと種明かしする。しかし、わかったところでどうしようもない。血液型は変えることができないし。
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