なんでだろう、涙が(ヒロアカ)
□障害物競争
1ページ/2ページ
「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう!いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!さて運命の第一種目!!今年は……コレ!!!」
ミッドナイトの背後のスクリーンにデカデカと文字が映し出される。
「障害物競走……」
計11クラスでの総当たりレースで、コースはスタジアムの外周約4q。上位何位までが予選通過できるのかの説明はなかった。
「我が校は自由さが売り文句!コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」
なにしたっていい……ねえ。
スタート地点に移動しつつ私は考える。
私のような移動に特化した個性ならば、一瞬で移動することができそうな気がする……現に私も、ゴールまで飛ぶことが可能だろう。
だけど、ゴールまで一気に飛んだら、体力の消費は尋常ではないだろう。私の個性は移動距離が長ければ長いほど、また私以外の運ぶものが重ければ重いほど体力を消費する。後の事を考えると、一気に飛んでしまうのは愚策か……
それにコースを守ればという一言が気になる。例え私がコースを守ったとしても、判断するのは周りの人であるわけだし。私が移動しているのは見えないのだ。
個性に頼りすぎるのは、危険……かな。
そんなことを考えているうちに頭上のスタート合図の赤いライトが消灯し始める。
軽く肩を回した。そして息を吸う。
私たちの体育祭は
「スターーーート!!」
今、始まる。
私は個性を軽く使って先頭グループに入り、ゲートをくぐった。前には轟くん、爆豪くん、切島くんに百ちゃん。個性のわかるA組の面々なので、気持ち的は安心である。
とりあえず私は個性を使わず、周りの様子見だ。
「スタートゲート狭すぎだろ!」
悲鳴を聞いてちらりと背後に目をやると、11クラスが一気に押し寄せたゲートが人で詰まっていた。そりゃそうだ、あのゲート多分横に5人ぐらいしか並べない横幅だもの。つまり、ここが最初のふるいなのだ。
氷の破裂音にその音に前へ視線を戻すと、轟くんの足元から次第に凍る道が見えた。
「おー、もっとやれー」
私は軽く煽りつつ、瞬間移動で地面に足をつけず走り、ことなきを得る。
ついでに、瞬間移動でそれを飛ぶというのは、斜め上方向に瞬間移動して、重力で落ちていき足が地面に着く前にまた瞬間移動しているということだ。正確に飛んでいるわけではない。ジグザグ上がったり下がったりしているのだ。
「なんだ!?凍った!」
「動けん!寒みー!」
「んのヤロォ!」
轟くんからの早速の悪質妨害に背後では多くの人が苦戦しているようだ。だが、それはA組以外の生徒に限っていた。
「甘いわ轟さん!」
「そう上手く行かせねぇよ、半分野郎!」
そう言って私と同様に、百ちゃんと爆豪くんは氷の妨害を飛び越え、轟くんについて行っている。切島くん、常闇くんも同じだ。流石に個性わかっているのだから攻撃パターンもわかる。
数メートル進んだところで前方に大きな仮想ヴィランが待ち構えていた。
「あれは、入試の時の0ポイント!」
今回は1体ではない。サイズの違う多くのロボットが障害物としてひしめき合っていた。一見すると壁。危険な壁って感じだなー。
「多すぎて通れねぇ!」
「ヒーロー科あんなんと戦ったの?!」
普通科、サポート科、経営科の生徒は早速足をすくませている。私も入試で初めて見たときは驚いたし、怖かったなぁ。なんであんなに怖かったのだろう。あまりの大きさに圧倒されたのかな。
でも、これは見掛け倒しだとヒーロー科はみんな知っているので、ちょっと邪魔なくらいだと思う。
先頭の轟くんは巨大なロボットを個性で凍らせ、その下を潜り抜けて先へ走っていく。滅茶苦茶バランス悪い状態で凍らされたロボットは今にも崩れそうだ。
妨害か。ほんと頭が回るなぁ。
「あいつが止めたぞ!!あの隙間だ!通れる!」
みんなが一斉に駆け寄るのは馬鹿なんだろうか。
切島くんとあと一人男の子がロボットの下を通ろうとしている。
今にも倒れそうだったロボットがゆっくりと傾いていく。
多分切島くんは個性的に大丈夫だ。でも、もう一人の男の子はタダでは済まない。狙いを定めグッと足に力を込める。
「まに、あえ!」
男の子の手を引き、転がり出る。自分のいたところにドンっと大きな音を立てて、氷の塊が落ちた。
「ま、ま、間に合ったぁ……」
ひえ、っと胸を撫で下ろす。冷や汗かいたわ。と思った時、男の子に突き飛ばされる。
「……え?」
上から降って来たのはロボットの破片であった。それはさっきまで私がいた場所におちた。つまり男の子の真上に。
背後でひどい音をたてて、ロボットが崩れ落ちていく。切島くんの声がうっすら聞こえる。
「おりゃあ!!俺じゃなかったら死んでたぞ!」
バコンっと音を立てて、ロボットの破片を押しのけた男の子。鉄のようになった肌は、傷1つ付いていないようだ。
「……よかったぁ」
「俺の個性は鋼鉄なんだよ!ロボットが落ちてこようと平気なんだよ!」
「……ごめん、余計なことして」
その上助けられてるなんて、何をしているのだろう私。
「まあ、俺を助けようと、やってくれたんだろ?憎きA組とはいえ、俺のためを思ってやってくれたんだ!ありがとな!」
「……」
憎きA組なんだ……
じゃあ、先行くぜ、と言って彼は走り出す。私も慌ててその背中を追ったのだった。