short2
□過去拍手
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こんな事言える立場じゃないのは百も承知
それでも、
“もっとそばに居て欲しい”
そう、願ってしまう
――はー、と息を吐き出せば、白い息が宙を舞って消えた。
「秋だねぇ」
「いや、もう冬だろ」
「ぬぬ!?まだ11月じゃん!秋じゃん!」
「(ぬぬ…?)11月っつっても、もう下旬だぜ」
「下旬だろうが上旬だろうが11月は秋でしょ!一護あったまわるっ」
「ああ!?11月の下旬は冬に決まってんだろ!頭悪りィのはてめえだ!」
「かっちーん!よりによって一護なんかに頭悪いとか言われたくないンですけど…!11月は秋だってば!」
「いーや冬だ!」
「あーきー!」
「冬!」
「秋!」
「冬!」
「…何を、してるんだ?」
道路のド真ん中で言い争っていた2人の目の前に現れたのは、茶渡。がば!と音が聞こえそうなくらい2人共勢い良く(同時に)茶渡に飛びついた。
「なぁ、チャド!今は冬だよな?」
「いんやー!まだ秋だよね!茶渡くん!」
「だーかーら、冬っつってんだろ!」
「こっちも秋って言ってんじゃん!」
「…どっちでもいい」
冷や汗を垂れ流す茶渡は、また言い争いを開始し始めた2人を置いて先に歩き出した。それにさえ気付かずに2人は延々と言い合いを続ける。
「――はー…はー…てめぇもしつけーな」
「はー…はー…一護こそ、ありえないくらいしつこい」
「お互い様、だろ」
「…」
「…帰るか」
「ん、」
あっさりと今までの言い争いは終了し、結局今が秋なのか冬なのかは曖昧なまま。
「もう、12月だね」
「あー、そーだな」
「クリスマス、だよ」
「おー…そうだな」
「一護は彼女、作んないの?」
「…たった一日のイベントのためにわざわざそこまでする必要もねえだろ」
「ふー…ん、じゃあ一護は寂しいクリスマスを過ごすんだ、ざまーみろ」
「うるせえよ、お前もだろ。ざまーみろ」
「あ、あたしは違うもん!」
ムカついて口をついて出た言葉は、咄嗟の嘘。ここで「はいそーです」なんて言ったら馬鹿にされるのがオチだと思ったから。なのに。
「…あ?」
驚いたような顔で立ち止まった一護は、あたしの方を見て眉根を寄せた。
「それ、どうゆう意味だよ」
「…さぁ」
「……へえ、そりゃ良かったな」
興味なさ気に言う一護の言葉に、ずきりと胸の奥が痛んだ。少しだけ、賭けていたりしたんだけどな。こりゃ、脈無しかぁ。
「嘘だよーだ!ばーか!あたしも1人きりのめりーくりすますですよーだ!ざまーみろー!」
一気に捲くし立て、一護より先にずんずんと進んで行く。
「ふーん…まぁ、どっちでもいいけどな」
ズキン、どっちでもいい?それって、つまりあたしに彼氏がいよーがいまいがどーでもいいって、そういうこと?まったくあたしなんか、興味ないってこと?あ…ヤバ、泣きそう。
「はは、寂しいねーあたしら」
「だから、俺は別に、」
「…あっそ!」
「…?お前、何怒って、」
「じゃ!ばいばい」
「…待てよ、家まで送る」
いつもの曲がり角、いつもの一護とばいばいする場所。今みたいに一護に家まで送るって言われた時、家が少し近いのは心底嫌だったりする。
「すぐそこだし」
「だから送ンだよ」
「…なにそれ」
「いいから」
「いい!一人で帰りますー!」
「だーッ!てめえこんな時まで意地張ってんじゃねーよ面倒くせー!」
「ほーらボロが出た!メンドクサイんでしょ!じゃあとっとと帰れし!」
「お前家まで送ったら言われなくてもとっとと帰るわボケ!」
「ボケゆうなし!ボケって言うほうがボケなんだし!」
「ガキかてめえは!」
「うるさっ…っくしゅん!」
「…………寒ィのかよ」
「別に。まだ秋だし」
「(関係ねえっつの)……ホラ」
さっと出された手を見て首を傾げれば、一護は細い溜息を零してあたしの手を握りそのままポケットに突っ込んだ。
「…何してんの」
「こっちの方が少しは寒さ防げんだろ」
「一護の体温が伝わってきて気持ち悪い」
「…お前、覚えとけよ」
喋るごとに宙を舞う白い息を見て、少し胸が切なくなる。本当はこんな風に近い距離が嬉しい。一護はきっとそんな事微塵も思ってないのかもしれないけど。
「嘘だよ。ありがと」
「…なんだよ、イキナリ素直になりやがって。気持ち悪りィな」
「でも他の子にしちゃだめだよ」
「…あ?」
「あたし以外の子にこんな事したらその子勘違いしちゃうよ」
「お前以外にしねーよ。こんな真似」
つーか出来るか!と言って何故か頭をすぱーんと軽く叩かれた。
「殴った…!この人女の子殴った!」
「おら、着いたぞ」
ぴたりと立ち止まり、自分の家の前に辿り着いていたことに気付く。もう着いちゃった。だからイヤなんだ、家が近いの。恋人でも無いあたしには一護を引き止める術を持ってないから。一護ともっと二人っきりで一緒に居られる術を持ってないから。
「…いつまで手入れてる気だよ」
「ん、家に入るまで」
「帰れねえだろーが!」
「上がってけば」
「…は?」
「なんでもないっ!じゃあお気をつけて!」
シュバッ!と手をポケットから引き抜きあっという間に玄関の扉を開く。逃げるように家に入り、後ろ手で扉を閉めようとしたその手を誰かに阻まれた。
「お邪魔します」
「は!?」
「なんだよ。上がってけっつったのお前だろ」
「いや、それは、その、冗談というか…いや、冗談じゃないけど、」
「?ハッキリしねえやつだな…。まあいいや。寒ィからちょっと暖まらせろよ」
「…う、うん!」
やった!
(神様はきっとあたしの見方をして下さったのね!)(…何ガッツポーズしてんだ…?お前)