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□過去拍手
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静かに冷たい風が頬を掠めて通り抜けていくのを感じながら、膝を抱えて嘆息する。目先に映る川は夕日を反射してきらきらと輝いて。そんな光景を見ているうちに段々胸の奥のモヤモヤも薄れてきて、下らない事で飛び出してきてしまった事に少し後悔する。
「心配、してるかな」
ふと頭に過ぎったオレンジ。
「ねー」
「?どうした?」
「一護ってさ、あたしのどこが好き?」
「なっ!…、…急になんだよ」
「んーなんとなく」
机に向かって勉強中の一護になんとなしに言ってみれば、驚いた顔してこっちを見た後一護はすぐにまた机へと視線を戻した。ベッドに寝そべったままあたしは読んでいた雑誌から一護へと視線を移す。暫くじーっと横顔を見つめたままでいれば、どこか居心地悪そうに頭を掻いた一護がぼそりと一言。
「…いーだろ、別にどこでも」
「なにそれー!良くない!」
「ならお前は俺のどこがいーんだよっ?」
「んーとね、可愛いとこ」
「はあ?」
「一護ってば顔に似合わず甘えん坊さんなんだもん」
「…聞いた俺が馬鹿だった」
なんでお前はそうこっ恥ずかしい事をサラッと…だのなんだのぶつぶつ言っていた一護に、で?と先ほどの質問の返答を求めれば、ちらりとこちらへと一瞬目線をやってから溜息を零した。
「…、…知らねえよ」
……………ぷち。
「……なにそれ」
「……………」
バサッ、
「…………帰る」
「あっ?なん…、」
「っさい!ばかっ!」
……我ながらなんて子供じみた事をしてしまったんだ。冷静になって考えてみれば、あんな言葉本気で言うような人じゃない事くらい分かるのに。
「…きっと一護の事好きじゃなかったら、あたしもあんな言葉本気で捉える事無かったのに」
本当に好きだからこそ、小さなことでも傷付く。女心とは自分で言うのもなんだが面倒なものだ。
…帰って謝ろう、そう思ってその場から立ち上がる。振り返って顔を上げた先には、先ほどから頭の中を支配しっ放しだった彼が息を切らして手を膝についていた。
「!っいち、」
「っバカ野郎!心配…かけんな…」
息を切らしたまま怒鳴る一護の顔はなんだか情けなくて、小さく笑ってしまった。
「お前なぁ…なーに笑ってんだよッ」
ぐに、と頬を掴み上げられ一護の顔が間近に迫る。
「いひゃいっ!ごみぇんへっ(痛いっ!ごめんてっ)」
「…ったく。ほら、帰るぜ」
当たり前のように差し出された右手に、きゅんと胸の奥が痛くなって。
「…うん」
その右手に素直に左手を絡めて、いつの間にか暗くなり始めた川沿いの道を歩く。
「ね、一護」
「ん?」
「良く分かったね、あたしが此処に居るって」
「お前の考えそーな事なんて分かんだよ」
「何それ。随分自信満々だね」
「アホ、どんだけ一緒に居ると思ってんだ」
「ふふ、そう言う割りにすっごい汗掻いてるけど」
「…うるせー」
数歩先を歩く一護の背中を見ながらあたしも歩く。
「ごめんね」
「あ?」
馬鹿な事聞いちゃったな。あたしのどこを好き、なんて。
こんな必死にあたしの事探してくれるんだもん。あたしのどこを好きだとか、そんなのは大した問題じゃなくて。
「一護の手あったかーい」
「そーか?お前の手が冷えてるだけだろ」
「えー?一護の愛のパワーで発熱してんじゃないの?」
「…バーカ、意味分かんねえよ」
「馬鹿っぽい頭の色した人に馬鹿とか言われたくありませーん!」
「…てめえ、置いてくぞコラ」
ねえ、しあわせだね。こうやって笑いあえるのって。
ねえ、このしあわせはあたしの独りよがりじゃないよね。
「…さっき、ごめんな。ひでえ言い方しちまって」
「んーん、あたしがくだんない事で怒って飛び出してきただけだし」
「でもやっぱり、どこが好きかとか。うまく伝えらんねえよ」
「…ん、」
足を止めた一護に続くようにあたしも足を止め、俯く。
「けど、…大切だよ、お前が」
「…!」
「あー…何言ってんだ、俺、」
ぶっきらぼうに早く行くぜ、と吐き捨てた一護が、無償に愛しくて。
「……へへ」
「……っ…」
顔を逸らしながらも、きゅっと握った手に応えるように握り返してくれる君の優しさに、ちゃんと気付いてるよ。
キミの言葉で
(ねえ、これからもたまにでいいから伝えてね)