Ruckseite

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「貴之ーっ!男鹿殿ですぞーっ!」
男鹿の元に悪魔が2人、1人は魔王の赤ん坊だけどな、がやって来るのと同じ時期に俺の家に居候し始めたオッさん。
次元転送悪魔とやらのアランドロンの声がベッドの下から高らかに響いた。
同時にベッドの下から眩い光が放たれて、男鹿が這い出て来る。
「ぶはっ、狭え!なんでベッドの下だよ!!」
文句を垂れながらも律儀に匍匐前進し、部屋に出たところで何事もなかったかのように立ち上がる。
「よっ」
「いや、よっ、じゃねえよ。そんなとこから出てくんな」
こういう時、突っ込まずにはいられない自分の性分が恨めしい。
「何しに来たんだよ、どーせろくな事じゃないのは確じつ…、……??」
「なんだ?」
俺もついつい普段通りに対応しかけて、小さな違和感に気づいた。
それは、最近はもう当たり前すぎて空気のような彼奴の存在。
「え?あ、お前、ベル坊は?」
男鹿の背中にくっ付いて離れない魔王の赤ん坊だ。
ベッドの下から現れた男鹿の背中にはベル坊の姿はおろか、気配も感じない。
「ああ、なんだ、ベル坊の母ちゃんがこっち戻ってきたから魔王のやつが、家族水入らずで魔界旅行だーっとなってベル坊はそっち行った」
「はぁ??まじで?」
「まじ」
そう言って男鹿は右手の甲を軽く見せてきた。
いつも出ている蠅王紋、ゼブルスペルはすっかり消えている。
どーやら魔王はベル坊と男鹿の契約を一旦切って魔界に連れて行ったらしい。
そうじゃなきゃ今頃こいつは黒焦げだもんな。
高一の冬頃、アメリカでソロモン商会に匿われていたベル坊の母ちゃんの元に会いに行った。
その後まあ、色々あってベル坊の母ちゃんも魔界に帰ったー的な話は聞いてたし、久々の家族水入らずが分からんわけでもないが…。
「なんつーか、魔王ってほんと自己中な」
「まあ魔王だしな。なんつったって」
俺の呆れたような言い草に男鹿はさっさと興味を移して、俺の部屋を物色しながら答えた。
部屋を物色と言ったって、男鹿の目的は分かりきっている。
さっきからTV前の辺りしか探ってないし。
こいつ、人ん家にゲームにしにきやがった。勝手に。
あ。待て。ヤバイぞ。確か、TVには…。
「おい、男鹿っ、待て、TV付けんなっ」
しかし俺の咄嗟の呼びかけは一歩及ばなかった。
なにが?と説いたげな男鹿がこちらを振り向いたが、その右手はしっかりTVの電源を入れていた。
電源が入ったTVは、リンクするように設定してたビデオデッキのDVDを勝手に読み込み始めた。
慌ててベッドから飛び降りて右手を伸ばす。
「…ぃやあぁーーーっっ」
一瞬だけ女の甲高い声を吐き出してTVの電源は切られた。
無言。
何も言わずに、ビデオデッキからDVDを取り出しパックに仕舞った。
「………」
隣の男鹿の視線が妙に痛い。
「お前、まだAV観てんのか」
「いぃいーーーーーだろ!!!!別に!!!それは!!!!」
俺たちの気まずい空気をぶち破るのはいつだって男鹿だ。
今日もまたストレートにパンチかましてきた。
いや、これに関してはデッキにぶち込んだままだった俺も悪い。
「しかも、なんだよ、そのタイトル。"ドSメイドに逆調教(ピー世間様のために伏字にします)"とか。言っておくが、ヒルダにそんな幻想は見ない方がいいぞ?」
「見てねーよ!!!いや、百歩譲って見たとして、俺にはできねぇよ!!!!!」
全力で男鹿に叫びまくってるせいと、もう消えて無くなりたい羞恥で顔から火が出た。
いや、実際には出てないけど。
俺の体感的には出てる。
「これはアレだっ!あのー、卒業して3年教室に置いてた姫川先輩の私物もらったんだよ!!だからこれは俺の趣味では断じてない!!!!」
姫川先輩、ごめんなさい!!!!
3年の教室に置いてあったのが流れ流れて今や俺の部屋にあるのは確かですが、姫川先輩のだってのはただの噂です!!!
「ひめかわぁ??」
男鹿の眉間にみるみる皺が刻み込まれる。
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