放課後怪談

□一、狐者異(こわい)
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一、狐者異

僕がコワイさんを初めて呼びだしたのは、今年の夏ーー7月の後半だった。学校の屋上や誰もいない教室を使おうと思ったけれど、誰かに見られるのが怖くて、町のはずれにある廃ビルまで学校が終わってから急いで自転車に乗って行った。

廃ビルの屋上に着いた頃には日が沈みかけていた。僕は早速、通学用鞄からしわだらけになった紙を取り出して屋上のタイルの上へ広げる。
紙には赤いへたな僕の字で『狐者異』と大きく書いてある。
狐者異で”こわい”と読むらしい。

さらに僕は一緒に持ってきたたい焼きの包みを3つ、重しのように紙の左端から右端へ向けて並べる。

あとは……。僕は自分のスマートフォンを制服のポケットから出し、たい焼きの並べられた紙のそばから10歩くらい離れてタイルの上に膝をかかえて座った。

出来たてのたい焼きの甘いにおいがする。何だかお腹がすいてきた。
そういえば今日は昼食を食べていない。

もし。

もし、”呼んでも来なかったら”、このたい焼きを食べてしまおう。

「…おいで下さい、おいで下さい、おいで下さい、おいで下さい…」
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