おそ松さん
□松ネタ吐き出し
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・尻軽トッティと巻き込まれ次男
・モブトド・モブカラ注意
・一応、十→トド、一カラ要素あります
その日のカラ松は、子供部屋で割れたサングラスを見つめて溜め息を吐いていた。
どうやら、自分はあの四男から嫌われているらしく、最近は特にカラ松のサングラスが壊されることが多かった。
(何故だ……。何故、こんなことをするんだ?一松)
カラ松には弟が何を考えているのかわからなかった。しかし、理由もなく、一松がカラ松の私物を壊すとは思えない。おそらく、カラ松は一松にそうされるだけのことをしてしまっているのだろう。自分は無意識の内に兄弟を傷付けているのだ。そんな自分に一松も傷付けられているのだろう。
「……はぁ、俺はなんてギルトガイなんだ」
散々一松を傷付けておいて、今さら一松との関係を修復したいというのは虫の良い話だ。
最近のカラ松は自分から一松に接触することを避けていた。
自分から絡みに行くと胸倉を掴まれて怒らせてしまうし、一松を不愉快にさせないように絡みにいかないようにしていたのだ。しかし、それでも気付かない内に何か不快になるようなことをしてしまったらしく、最近ではしょっちゅうサングラスを壊されたり、いきなり物を投げ付けられたり、物で突っつかれたりする。
どうしたら、一松を怒らせたり、不快にさせたりしないようにできるのだろうか。
そんなことばかり考えていた。
何かに悩むカラ松を見かねたのか、何処かに出かける前のトド松がカラ松に話し掛けてくれた。
「カラ松兄さん、知ってる?最近ね、コンビニ限定でダッツの新作アイスが入ったんだって」
今はまだ寒さの残る時季だが、トド松が、「兄さんも良かったら食べてみたら?」と教えてくれたのだ。
ダッツの新作。しかも期間限定。
ぐるぐると答えの出ようのないことに悩んでいても良くない。暇だし気分転換にトド松オススメのアイスを買いに行こうと思いたった。
コンビニでダッツを買って店を出て、ご機嫌で家路を歩いていると突然、背後から声を掛けられた。
「トド松君」
弟の名前を呼ばれて、振り返ると知らないおじさんが笑顔で自分に話し掛けていた。
「トド松君、久しぶり」
そう言っていきなりキスをされる。
何が起きたのかわからずに、カラ松は固まった。ざらついた舌が咥内に押し入り、舌を絡め取られて、歯を舐められる。ちゅぱちゅぱと唇を啄まれた。気持ち悪い。嫌悪のあまりカラ松の肌がゾワリと拒絶反応を見せたが、恐怖と困惑のあまり動くことができなかった。
そして、そのまま公衆トイレの個室に連れて行かれて、犯された。
『恐がらないで』
『泣かないで』
『どうしたのトド松君』
『今日はそういう方向なの?』
『可愛いよ』
『好きだよ』
色々なことを言われた。抱き締められた。キスもされた。痛くて怖くて気持ち悪くて、沢山泣いた。
最後に「気持ち良かったよ」とお金を何枚か渡された。
とりあえず、貰える物は貰っておくことにした。酷いことをされたけれど、それはそれ。これはこれ。お金に罪はないのでカラ松は泣きながらもしっかりとお金を受け取った。変なところで割り切りの良い屑根性はまさに松野家の六つ子であった。
公衆トイレの臭いが染み付いた服を身に付けて、よたよたと覚束ない足取りを何とか踏ん張って、薄暗い家路を歩く。トイレの隅に放置されていた袋に入ったダッツは置いてきた。もう食べられなくなっているだろうし、持ち帰る気にもなれなかった。
家に着いてガラガラと扉を開いて居間に直行する。スパーンと勢い良く襖を開くと、既に帰宅していた五人の兄弟の視線が一斉にカラ松に集まった。
おそ松はゴロゴロと寝そべっており、一松は部屋の隅で膝を抱えていた。十四松はトド松と囲碁をしていたし、チョロ松は卓袱台で雑誌を読んでいた。
「トド松ぅっ!!!」
凛々しい眉根を寄せて、腹の底から低い声を出して末弟を呼んだ。
「今から俺と一緒に、釣りに来ないか?」
真剣な目で、釣りに誘うカラ松に兄弟は驚いた。
一松は滅多にないカラ松の反応に興味を引かれ、チョロ松は「え、今夕方だよ!?何言ってんの?!」とツッコミながら心配をしている。
おそ松はカラ松の滅多にない険しい表情に好奇心を刺激され興味津々で様子を伺っており、十四松は囲碁の相手をしてくれていたトド松と入り口に立っているカラ松を困惑したようにキョロキョロと交互に見ている。
トド松は不穏な予感を察知した。
「……良いよ」
「ごめんね、十四松兄さん」と言って立ち上がると「じゃ、行こうか」とカラ松に続いて部屋を出ていった。
おそ松がこっそり襖を開いて玄関にいるトド松とカラ松の様子を伺っており、部屋にいる兄弟に手招きをする。釣り道具も持たずに家を出たカラ松とトド松を、こっそり見送る兄弟達。
「あいつらどうしたんだろ…」
「面白そうだし、付けてみようぜ」
長男の鶴の一声で、カラ松とトド松を追跡することが決まった。
◇◇◇
「トド松。お前、おっさん相手に身売りしてるだろ?」
いつもの釣り堀で、カラ松はトド松にストレートに切り出しはじめた。
「え……」
一瞬、トド松の顔が強ばった。しかし、すぐにスッと目を細めて小生意気な笑みを浮かべる。
「だから、何?」
冷えた声音で逆に問いかけると、カラ松がきょとんと大きく目を見開いていた。トド松の開き直りが予想外だったのだろう。今頃、カラ松の頭の中は真っ白の白紙だろうな、とトド松は考えて嘲笑した。
トド松は目の前のイタイ兄貴を見下していた。今のカラ松は昔とは違い、弟から強く言われると押し切られてしまうのだ。随分とこの兄も腑抜けになってしまったものだな…とトド松は日頃から思っていた。
「ねぇ、何が悪いの?」
「え……」
「僕だってね、こんなこと仕事にする気ないし、一生続けるつもりないし、期間限定のちょっとした小遣い稼ぎみたいなモンでしょ。女の子じゃあるまいし、何一々目くじら立てる必要があるの?僕達もう二十歳過ぎてるんだよ?こういうのってもう自己責任ってヤツじゃないの?」
「え……いや」
「というか、カラ松兄さんには関係ないでしょ」
ガンガンと早口に責め立てられてしまい、口下手なカラ松は凛々しい眉を下げて黙り込んだ。元々、六ツ子達には貞操観念だとか常識とか倫理など欠如していた。今さらカラ松がトド松に身体を売ることをやめるように説いた所で説得力などありはしない。
しかし、兄として、どうしても言わねばならないこと、注意しておかなければならないことがあった。
他の兄弟の為にも。
キリッと眉に力を込めてカラ松はトド松を見据えた。
「ただな、他の兄弟が、トド松に間違われたらどうするんだ?」
「は? いやいや、それはないっしょ。特に、イッタイカラ松兄さんなんか絶対に間違えようがないでしょ〜」
「………」
何を言っているの?馬鹿なの?と言って鼻で笑ったトド松は、俯いてしまったカラ松を見て、不審そうに眉根を寄せる。
「え……もしかして、僕と間違えられたの?」
「……まあな。俺達は一応六つ子だからな」
躊躇うように告げるカラ松の言葉に、トド松は頭から血の気が引いていくのを感じた。
「……なに……何か、されたの」
「……あー……軽〜くキス、だけな」
軽い感じに返事をするが、カラ松の声は微かに震えており、目はトド松からそらされて下を向いている。
「……ねぇ、僕の目を見て話してよ。カラ松兄さん。本当は何されたの?僕のせいなんでしょ?」
「……」
「お願い、兄さん。僕を見て……」
すがるようにお願いされて、カラ松が顔を上げる。その首筋に付けられている跡を見て、トド松の目が大きく見開かれる。カラ松の嘘にトド松は気付いてしまった。そして、己の罪と過ちを知った。
兄を巻き込んでしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。どうしよう。どうしよう。
「……ご、ごめんなさい。カラ松兄さん」
真っ青になって涙声で謝罪するトド松に、カラ松は驚いた。
すがるようにカラ松の胸に顔を押し付けてもう一度「ごめんなさい。兄さん……」と謝った。
カラ松はトド松の頭をそっと撫でる。
「もう二度とこんなことをしないというなら、許してやるぜ」
ニカッと明るく笑って許したのだった。
その瞬間。
ザパーンと慌ただしく水が立つ音が聞こえた。
二人が驚いて水辺に目を向けると、目の前に家にいるはずの兄弟が、四人揃って水中から現れた。
「あのさぁ。今の話、ちょ〜と詳しくお兄ちゃんにも聞かせてくんねーかな?」
ざばざばと水音を立てながら、笑顔で近づく長男・おそ松がそこにいた。さらに彼の後ろにはチョロ松・一松・十四松と横に並んでいる。
彼らの不穏な気配にカラ松の顔が真っ青になる。身の危険を察知したトド松はカラ松の背中に隠れてガタガタと震えていた。
おそ松がよいっしょとカラ松の座っている前の淵に手を掛けて陸地に上がる。そして、ずぶ濡れの姿でカラ松を見下ろした。驚きのあまり思考を停止したまま、呆然と兄を見上げるカラ松。弟の首筋を目にして、おそ松の目が冷ややかに細められる。
「とりあえず、家に帰ろうか」
にっこり笑って、言った兄の目は全く笑っていなかった。
怒っている。
おそ松だけじゃない。ざぱざばとおそ松に続いて水辺から上がってくる他の兄弟達も怒っているのをビリビリと肌に感じた。
十四松はいつも通り焦点の合わない笑顔でトド松のことをじぃっと見ていた。物言わぬ不穏な視線にトド松はカラ松の背中で「ヒィッ」と怯えた。カラ松の背中に隠れているトド松を、チョロ松が冷めた目で眺めていた。
カラ松もカラ松で、弟を背中に隠しながら涙目で両手を挙げていた。抵抗する気はないという無抵抗を示す降参ポーズをとっている。
そんな怯えきったカラ松の胸倉を、一松が濡れた手で掴んで、詰め寄る。
「ねぇ、何これ」
弟は人殺しの目をしていた。
胸倉を掴まれて無理やり立たされたカラ松は、一松に嫌われてしまったという悲しみと、恐怖のあまりろくに返事もできない。「す……すまない……」とポロポロと涙を溢して謝ることしかできなかった。
「まあまあ、一松。落ち着けって」
ポンポンとおそ松が殺気立つ一松の肩を叩いて宥める。一松は「チッ」と舌打ちをすると突き飛ばすようにカラ松の胸倉を離した。
「イイコイイコよく我慢したな」
「あざ〜っす」
頭を撫でるおそ松に、投げやりにお礼を告げる一松。目の前でいつものような軽いじゃれあいを繰り広げられるが、今のカラ松とトド松には入っていけない。恐ろしいものを見るように様子を窺っている弟二人の視線に気付いたおそ松がくるりと振り返る。
「とりあえず、帰ったら、久しぶりの兄弟会議だからな」
低い声で告げられて、カラ松とトド松はコクコクと黙って頷くことしかできなかった。
end