おそ松さん

□松ネタ吐き出し
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 血のように真っ赤な魔毒の空の下。

 強欲の悪魔おそ松は、自身の私有地である森の中で死にかけの天使を見つけた。

 真っ黒な十四枚の翼を広げて仰向けに倒れていた堕天使。
 鴉のような羽は周囲ににたくさん撒き散らして息絶えようとしていた。

 虚ろな目をして今にも死にそうなくせに、その腕の中には、下半身のない内臓がはみ出たゾンビを抱いており、そいつを絶対に離すまいと言わんばかりにしっかりと抱き締めているのだった。



◇◇◇



 十四松は天使である。

 元々は人間であったが、人間として生まれることなく死んでしまった。
 現在は、人間であるトド松の守護天使として彼を見守っている。

 十四松は生前、トド松と双子で生まれるはず予定であった。

 しかし、化け物染みた生命力の持ち主だった十四松は、なんと母親の胎内で片割れを食らってしまいそうになった。自分を片割れに吸収させることによって、なんとか片割れを生かすことに成功したが、その代償に、己が生まれることができずに母体内で消滅してしまった。

 この世に生まれることができなかった十四松は死後、天使として生まれ変わった。

 片割れに全てを捧げた無垢なる魂は、十四枚の翼を持つ大天使となり、愛する弟を見守る守護天使となった。






◇◇◇





 松野トド松は生まれてくる前、母親の胎内にいた頃、双子の兄弟がいた。しかし、母体内で双子の片割れが消えるというバニシング・ツイン現象が発生してしまい、トド松は一人で生まれた。

 両親はトド松に双子の兄弟がいたことを話さなかったので、トド松は自分に兄弟がいたことを知らずに育った。



 十四松はそれでも全然かまわなかった。自分の大切な片割れが幸せに生きているのなら、それだけで良い。十四松は兄のような気持ちででトド松の幸せを願い、生まれてからずっとトド松の成長を微笑ましく見守り続けていた。

 頭がよく社交的な少年に育ったトド松は多くの人に愛された。特に、友人の数が多く、老若男女を問わない交際範囲の広さを持つようになったトド松は常にたくさんの友人に囲まれていた。また、頭の回転が速く、話術が巧みで、機転のきくトド松は、気取らずに本音で付き合えるので、異性の友人も多かった。

 十四松はトド松が笑っているだけで幸せだった。彼が大勢の人間に囲まれて楽しく人生を謳歌していることが嬉しかった。

 しかし、あるとき十四松の大切なトド松は殺された。

 女友達の痴情の縺れに巻き込まれて、誤解の果てに見も知らぬ男に殺されてしまったのだ。

 駅のホームで突然襲い掛かられて揉み合いになり、トド松は線路に突き落とされてしまった。

 線路に落ちた後はあっという間だった。

 十四松の目の前で、トド松は電車に轢かれ、上半身と下半身が真っ二つに離れて死んだ。



 十四松は気が狂ったように絶望の叫びを上げた。

 神の定めた法だとか、
 決まり事だとか、

 全て頭の中から消え失せた。

 十四松はトド松を殺した男を殺した。

 そして、愛するトド松の遺体を人間共から拐い、彼を復活させようとしたが、神の御技を猿真似した蘇生術は失敗に終わってしまった。

 トド松は生前の面影失った理性のないゾンビとして復活を果たした。

 幾重もの禁忌を犯した十四松は、神の怒りに触れて堕天し、魔界へと落とされた。

 そして、魔界に落とされた際に聖なる天使は魔毒の空気に触れて十四枚の白い翼は漆黒に染まり、彼の精神は毒にやられて狂ってしまった。しかし、狂ってもなお愛する弟への庇護欲と執着だけは強く残っており、その腕には内臓がはみ出したゾンビがしっかりと抱き締められていた。










「うっひゃ〜。なんか、スッゲーの堕ちてきたと思ったら、天使とゾンビかよ……」



 悪魔は、自分の私有地に堕ちてきたものを見て面白そうに笑う。

 今にも息絶えそうな堕天使とゾンビを見下ろしながら、とりあえず、家に連れて帰るか、と、天使の両足を掴んでズルズルと引き摺って歩き出した。
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