おそ松さん

□松ネタ吐き出し
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ケット・シー一松×人魚カラ松






 地上に憧れていたカラ松が、本日も海面近くを泳いでいると、頭上を大きな影が通った。かなり広い。距離をとって海面に出てみると、それはとても大きく賑やかな船だった。キラキラと光が漏れ、明るい歌や華やかな音楽が聴こえてきた。とても楽しそうだった。お祭りのような明るさに惹かれるように、カラ松はそっと船の後を付いていくことにした。

 ふと、ひとり海を眺める青年がいた。頭から獣の耳をチョコンと生やしている。人間ではない。



(魔獣だ……)



 魔獣の存在については、幼馴染のクラーケンの少女から聞いたことがあったけれど、実際に目にするのは初めてだった。

 とても綺麗な紫紺の瞳。退屈そうな顔が不機嫌な子供のように幼く見えた。そして、その首には黄金のドクロのペンダントが掛けられている。なかなか良いセンスの持ち主だ。

 一目で相手を気に入ったカラ松は、胸元のペンダントにうっとりとした瞳で熱い視線を送る。暫くして青年が海面にいるカラ松に気付いて視線を向けてきた。



「!!」



慌てて水中に潜るも、つまらなさそうに海面を見下ろしていた瞳は驚いたように見開かれている。これは、まずい。見られてしまったかもしれない。

 人魚の涙は真珠となり、肉はどんな怪我や病も治す万能薬としての効能を持つ。そして、その歌声は聴く者を魅了する力を持っている。

 故に、人魚は同胞以外の種族から狙われやすい生き物なのだ。

 姿を見られてしまった。どうしよう。緊張してドキドキ早鐘を打つ心臓。カラ松の頭の中から魔獣の青年が離れない。特に気だるげな紫紺の瞳はとても綺麗だった。そして、あのイカしたドクロのペンダントも気になって仕方ない。

 何処に向かっているのかもわからない陸に生きる者。今を逃せばもう二度と会えないかもしれない相手に、意を決して、もう一度海面に上がることにした。

 水飛沫を上げて勢い良く水面から顔を出したカラ松を、船の上から猫耳の男が見下ろしていた。

 今度はもうカラ松は逃げなかった。

 先程、逃げてしまった手前、照れ臭そうに笑いかけると、男がさらに目を見開く。



「…お前、人魚だろ。何で、おもてに出てんの?」

「君のことが気になってな。こうやってあらわれたんだ」

「人魚って、意外と警戒心薄いんだね……」

「君は魔獣だろ? 俺、魔獣は初めてみたんだ。意外とキュートだな」

「……ケット・シー」

「ケット・シー?」



 ぼそりと言われた聞き慣れない言葉に首を傾げる。カラ松はケット・シーが何なのか知らない。説明するのが面倒だったのか魔獣は敢えて、首を傾げたカラ松の様子に気付かないフリをした。



「ねぇ、人魚って歌が上手いんでしょ」

「あぁ」

「何か歌ってよ。暇なんだ」

「いいぞ」



 カラ松は歌うことが好きだ。



「でも、俺が歌うと皆眠ってしまうからな。今は無理だ。君のいる船を溺れさせるわけにはいかない」

「そう……」



 断られると、相手はあっさり引いた。



「ねぇ、何であんた、この船に付いてくるの?」

「それは、君が付けている首のが気になって……」

「首?」



 ドクロのペンダントを掲げるケット・シー。



「もしかして、これ?」

「あぁ、それだ。とってもカッコいいな!イカしてるぜ」

「……どーも」



 おもむろに、青年が首に掛けていたペンダントを外す。



「やる」

「え?」



 船の後を付けていたカラ松に目掛けてペンダントを放り投げて落とした。



「いいのか?」



 驚いて問いかけると、青年がコクリと頷いた。



「これあげるからさ……俺と友達になってよ」

「え?」

「……だめ?」



 不安そうに耳と目を伏せるケット・シー。



「いや、そんなことない!君と友達になれて嬉しい」



 そういうと、ケット・シーの顔にふんわりと笑みが広がる。その優しげな眼差しにカラ松の頬が微かに熱を持つ。



「俺、カラ松って言うんだ。よかったら、君の名前を教えてほしい。マイフレンド」

「……一松」

「いちまつとからまつ。……おぉ!デスティニー!名前のまつがおんなじだな!」

「……そうだね。ところで、アズーロ湾って知ってる?」

「あぁ、知ってるぞ。あそこは人間達があまり来ない静かで綺麗な入り江だな」

「僕の乗ってるこの船はアズーロ湾の近くの港町に向かってるんだ。明日には着くから、そこの入り江で会える?」

「OK。俺とお前のランデブーだな!」

「……」



パチンとウインクして言うと、青年に微妙な顔をされる。変なことを言ってしまっただろうか……。


「それじゃあ、カラ松。明日、入り江で待ってる」


 そう言って笑った一松に、 ゾワッとカラ松の肌が粟立った。

 光のせいか一瞬、紫の瞳がキラリと光って見えた。
 キヒヒと笑った口元から覗くのは鋭い獣の牙。

 心臓の鼓動がドキドキと速くなる。



(行っては行けない)



 脳内で警鐘が鳴り響く。


「あ……俺……」



(行かない方が良い)



 一瞬、断ろうかと思ったけれど、一松の眼を見ると結局なにも言えなかった。

 じゃあね、と手を振る一松に同じように手を振り返して、そのまま遠ざかる船を見送った。





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〈後書きという名の言い訳〉

昔々、猫には天気の予知する能力や、荒天でも方角を示す能力とがあると信じられており、猫は船の守り神として人間と一緒に旅をしていました。
なので、魔獣イッチも天気を予知する能力を持っていて人間と一緒に船旅をしているという設定でした。全く活かせなくて無念です……。
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