おそ松さん

□松ネタ吐き出し
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猫の日記念&拍手お礼SS




ザラリとした小さなモノが頬を撫でる感覚に目を覚ました。

目を開けると、一匹の猫がカラ松を見下ろしていた。アメジストのような瞳をしたとても綺麗な黒猫だった。

体を起こして、立ち上がり、辺りを見ると周囲は霧に包まれており、ここが何処だかわからない。

余所見をしていたカラ松に、黒猫がニャ〜と一声鳴いて振り返って足を止める。まるで「ぼさっとしてんじゃねぇ!さっさと付いて来い」とでも言いたげな鋭い視線に、カラ松は慌てて小走りで猫の後ろを追い掛けた。

進めど進めど霧の中。



「…〜つぅ…」

「ん?」



背後から何かの声がした。



振り返ろうとして、足を引っ張られた。

足元を見ると、一匹の白い猫がカラ松のパジャマの袖を噛んで、前へ前へと引っ張っていた。くるりとした瞳の可愛い猫で首には大きな桃色のリボンを着けていた。



「…振り返るなということか?」



問い掛けると、白猫は「ニャン」と一声鳴いた。
前を見ると黒猫が立ち止まってカラ松を振り返って待っていた。



「ニャ〜」



先程よりも低い声で鳴かれてしまった。
仕方がないので、後ろを振り返らずに黒猫の後を付いて歩く。



「…らまつゥ〜」



背後からまた声が聞こえた。

もしかすると、自分を呼んでいるのかもしれない

足を止めたカラ松に黒猫が咎めるようにニャ〜と鳴き、白猫は足の袖を前へ引っ張るがカラ松は動かない。



「俺、もしかすると呼ばれているのかもしれない。行かなくちゃ」



後ろを振り返ろうとしたカラ松の頭に、上から何かがチリンと音を鳴らして降って来た。



「痛っ」



落下物を両手で取ると、それは大きな金色の瞳をした黄色い毛並みの猫だった。首には大きな鈴が付いている。



「ニャ〜」



チリンと鈴を揺らして、カラ松の手から躍り出る。



「…お前も、後ろを向くなって言ってるのか?」



問い掛けると、黄色い猫はチリリンと鈴を鳴らして大きく頷いた。
カラ松の左には黄色い猫。右には白い猫が歩いている。
そして、カラ松の前には道案内するかのように黒猫が先を歩いている。



「…さん…〜ぃさん」



背後の声が先程より大きなものとなっていた。カラ松の名前をはっきりと呼んでいた。

まるで、泣いているような、救いを求めてすがるような声にいてもたってもいられなくなる。



「なぁ、アノ声は本当に無視しても大丈夫なのか?ちょっと、行ってやった方が良いんじゃないのか?」



猫たちに聞いてみるが、三匹とも咎めるように目を細めて首を振るだけだった。



「からまつゥ〜……てこい…」



背後の声が変わった。

はっきりとカラ松を呼ぶ言葉を発した。



「いかなくちゃ……」



猫達の耳と尻尾がピンッと伸ばされる。

三匹がカラ松を引き留めるように群がった。



「ごめん!でも、もどらなくちゃ!」



しゃがみこんで足元の猫をそれぞれ ひと撫ですると、カラ松は立ち上がって後ろを向こうとした。

ところが、前からボールのように勢いよく飛んできた猫にぶつかって、上半身はのけ反り、強制的に顔を上に向かされてしまった。



「ぶっ……はあああぁ!!いきなり何なんだよ!お前」



顔にしがみついているモノを両手で引き剥がせば、茶色と白の毛並みをした緑目の猫だった。

猫はカラ松の顔を引っ掻いた。



「いッてぇな!何ンなに怒ってんだよ!」

「フッウゥウウウ!」



鋭く爪を出して自分の体を掴んでいるカラ松の手を引っ掻いた。手に走った鋭い痛みに驚いて思わず、手の中の猫を手放した。



「ニャ〜!!」



緑目の猫はカラ松に向かって怒ったように一声鳴くと、今度は黒猫と白猫、黄色い猫に唸った。まるで、三匹を叱り付けているように見えた。

もしかすると、自分のせいで三匹が怒られている気がして少し申し訳なさを感じた。



「……ってこい……らまつぅ〜」



後ろから、またカラ松を呼ぶ声が聞こえた。



「シャア〜!」



緑目の猫が声に向かって威嚇する。

思わず、カラ松は後ろを振り返りかけてやめた。

足元にいる白猫と黄色い猫が首を振っていた。



「……わかったよ。アレは良くないモノなんだな」



そういうと、二匹の猫は頷いてくれた。

黒猫が一番前を歩いていく。
カラ松もその小さな背中に付いて歩く。
カラ松の右には白猫。
左には黄色い猫。
後ろを緑目の猫が歩いている。

たまに、背後からカラ松を呼ぶ声が聞こえてきたが、その度に緑目の猫が「フ〜!」と威嚇する。

歩けば歩くほど霧がどんどん黒みを増し、周囲が暗い闇に変わっていく。

いつの間にか、背後からカラ松を呼ぶ声が聞こえなくなった。

カラ松は不安になった。



「なぁ……俺、このまま行っても本当に大丈夫なのか?」



前を歩いていた黒猫がチラリと振り返ったが、それもほんの一瞬だけで、足は止まらず、すぐに前を向いてしまった。

猫達は何も答えてくれない。



「……やっぱり俺、戻るよ」



物言わぬ猫の視線が自分に向いているのを感じた。



「ごめんな」



白猫と黄色い猫がカラ松を行かせまいと足元に絡み付き、緑目の猫は怒ったように鳴いている。紫目の黒猫は静かにカラ松を見つめている。

その時、何処からか一匹の猫が現れた。

茶寅の柄に赤みのかかった黒い目をした猫だった。



「ニャア〜ン」



ゴロゴロと喉を鳴らして甘えるようにカラ松に向かって鳴いた。



「…何だ。また猫か?」



足元にいる二匹の猫の間に割って入ってカラ松を見上げる。



「ニャアン」



甘えるように鳴かれて、恐る恐る手を伸ばすと、緑目の猫に引っ掛かれた傷跡をチロチロとを舐められた。



「あ、ありがとう」

「ニャア〜ン」



お礼を言うと、猫はご機嫌そうに鳴いて応えてくれた。

一抹の不安を心のどこかで感じながら、カラ松は猫達に付いていくことにした。

先頭を黒猫と茶寅の猫が歩き、カラ松はその後を付いて行き、右に白猫、左に黄色い猫、カラ松の背後を緑目の猫が歩く。


そうして暗い闇の中を歩いていると、前方に大きな影が立ち尽くしているのが見えた。



(何だ、アレ……)



大きな両扉がぽつんと立っていた。

黒猫はカラ松を扉の前まで案内すると「ニャアン」と鳴いて座り込んだ。

扉は重々しい鉄で出来ているらしく、取っ手には黒い蛇が絡み付いている装飾が施されていた。

その扉の真ん前まで来ると、どっしりとした荘厳な雰囲気にカラ松は気圧されそうになった。



黒猫が扉に向かって鳴いた。



「ニャア〜オ」



ギギギッと重々しい音を出しながら、ゆっくりと扉が開かれていく。

真っ暗な扉の向こう側から一人の若者が現れた。

ソイツは、小さな王冠を頭に被り、さらに黒い猫耳を生やして、漆黒の外套に身を包んだ……六つ子の四男・弟の松野一松だった。



「お帰り。よくここまで案内してくれたね」



猫に視線を向けながら、労るように声をかけると、猫達は一斉に我先に争うようにと一松の元に飛んで行く。

一松は右手で黒い外套を広げて猫を迎え、猫達は次々に真っ黒な外套の中へするすると消えていった。



「いち…まつ?」



何で、こんなところに居るんだ…。しかも、変な格好をしている。

フラフラと猫耳一松に近づきながら、呆然と見つめていると、彼は外套を閉じて顔を上げてカラ松を見た。



「あんたも運が悪いね。悪魔に目を付けられるなんて」

「え…」



訳がわからなくて猫耳一松を見つめていると、彼の後ろから突然おそ松が現れた。

赤と黒の縞模様の角を二本頭から生やし、蝙蝠のような羽を生やした悪魔のような姿をした兄。でも、多分…コイツはおそ松じゃない。コイツらは、おそ松でも一松でもない!!じゃあ、ニヤニヤと笑うコイツは一体、何なんだ…?!

ゾワリと背筋が冷たくなった。顔から血の気が引くのが自分でもわかった。



「よぉ、王さま。ちゃぁんと、魂連れて来てくれたんだな」



悪魔が猫耳一松もどきの肩を組んでニヤリと笑うと、猫耳一松もどきもニヤリと笑う。



「まぁね」



カラ松には何を言っているのかはわからなかった。



(何を、言ってるんだコイツらは…。)



なんとなく、自分のことを言っているのはわかる。そして、不穏な予感を感じる。

猫に付いて行っていた時、途中から、心の何処かで感じて無視していた不安が、モクモクと暗雲のように心に立ち込めて、脳内でけたたましく警報装置が鳴る。



(逃げないと!)



カラ松は身を翻すと、扉に向かって走った。
だが、開かれていた筈の扉は固く閉ざされて、外に出られない。



「クソッ、クソッ!」



重い扉を力一杯に叩いてみてもビクともしない。



「無駄無駄。出られないって」



耳元で声がした。

後ろを振り向くと、そこには赤い悪魔がいた。真紅の瞳を細めて楽しそうにカラ松を見ている。



「お、俺を…一体、どうするつもりだ?」

「さぁてねぇ?人間のお前がさぁ、悪魔の魂の使い道を知っても良いことなんか何にもないと思うけど?」

「………」



クッと歯を噛み締めて、カラ松は泣きたくなるのを堪えた。


ここに向かう途中に聞こえてきた謎の声。
あれは、自分を引き留めてくれる誰かの声だったのだ。その事実に今さら気付いた。

恐怖と悔しさと不安に泣き出しそうになる気持ちを抑えて、ニヤニヤと笑う悪魔を睨み付けるが、もうどうにもならない状況である。



「さて、カラ松くん。俺と一緒に地獄に逝こうぜ」

「い…嫌だ!この、悪魔!人でなし!パチンカスニート!」

「いやいやいやいや、俺様人間じゃないし、パチンカスでもニートでもないし。悪魔だし」

「俺も、正しくは、悪魔に属する魔獣ケット・シーだよ」



悪魔の後ろから、ひょいと猫耳に王冠を被った一松が現れる。感情のよく窺えない冷えた目がカラ松を見つめていた。



「ほんじゃ、ちょっと眠っててねー」



悪魔の手がカラ松を顔の前に翳されて、カラ松の意識がクラリと揺れる。とても立っていられなくなり、背後の扉に背中を付いて、酔っ払いのようにずるずると地べたに座り込む。思考と視界に靄が掛かってぐるぐる回る。二人の姿が揺れる。とても、目を開けてはいられない。

遠ざかる意識の中で、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。


兄弟の声に似ていた気がするが、それが誰の声なのか考える前に、カラ松の意識は真っ暗な闇へと落ちていった。






カラ松ケット・シー悪魔




2月22日の猫の日に向けての記念SS。
パカカラでうっすらファンタジー松。
ホムンクルスの話とは関係ありません。

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