おそ松さん

□松ネタ吐き出し
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・兄弟が、カラ松事変で死んだカラ松と夏祭りで再会した話











 数ヶ月前、松野家の次男・松野カラ松は死んだ。

 松野兄弟が溜めに溜めたおでんのツケを払わせるために、怒り狂ったチビ太がカラ松を誘拐した。そして、カラ松は海で縛られ、自宅前で火炙りにされた挙げ句に兄弟達から鈍器を投げ付けられて死んでしまった。

 六つ子の兄弟は呆気なく五つ子になった。

 突然のカラ松の死に両親は泣き崩れた。

 兄弟も「誰がこんな酷いことを!」「絶対に許さない」と怒りに身を震わせながら泣いた。

 直接の死の原因は兄弟達だったが、彼らは夜中の出来事を寝惚けて全く覚えてはいなかった。

 こうして、カラ松の葬儀は身内だけでひっそりと行われた。

 数ヶ月後。

 赤塚市で夏の夜祭りが開かれた。死者が返ってくると言われている盆の季節。やることもないニートな元六つ子達は親から幾らか小遣いを貰って祭りに参加した。

 辺りは薄暗い夜の闇に包まれて、周囲を祭りの提灯や出店の灯りが照らしている。



「あ!カラ松兄さん」



 五人の最後尾を歩いていたトド松が声をあげて、足を止めた。

 続いて、トド松の様子に気付いた十四松も「え?どこどこ?」と足を止めてキョロキョロと辺りを見回す。

 弟達の異変に気付いた他の兄弟も「何々?」「どうした?」と足をとめる。




「あそこ!ほら、カラ松兄さんだよ」



 トド松が指をさした先には、祭りの参加者に混じって、人混みを歩く青いパーカーの男がいた。その顔は間違いなく、松野家の六つ子の次男。

 数ヶ月前に死んだ筈の松野カラ松だった。



「おーい!カラ松ー!」

「カラ松ー!」

「クソ松!」

「カラ松兄さぁあああん!」

「カラ松兄さーん!」



 兄弟がそれぞれ人混みの中を突っ切って青いパーカーを着た次男の元へ駆け寄る。そして、人混みも何のそのと弾丸のように突っ切ってはカラ松の元へ真っ先に突っ込んで行ったのは松野家の核弾頭・松野十四松だった。



「兄さん!兄さん!兄さん!兄さん!カラ松兄さぁーん!」

「うごぉ!」



 突然真横から飛び掛かられたカラ松は、受け身を取ることができずに十四松もろとも勢いよく地べたへと倒れた。





◇◇◇




 とりあえず、他の人の邪魔になってはいけないので、通りの隅に移動した。

 そこで、兄弟は泣いた。



「お前に会えて嬉しい」

「何で死んじゃったんだよ」

「クソ松のクセに死んでんじゃねーよ!生き返ろよ」

「兄さん一緒に帰ろう?」

「僕達と一緒に帰れるよね?」



 などなど無理なお願い事を口々に言っては、散々泣いてカラ松を困らせた。

 カラ松もカラ松で、

「俺も愛しいブラザー達に会えて嬉しい」

「人間だからな。死ぬときは死ぬんだ……」

「生き返ることができなくてすまない」

「一緒に帰れないんだ。俺は死んでしまったから」

「すまない」



 とボロボロと涙を溢して泣いて謝った。

 ひととおり皆で泣いて、泣き疲れると、おそ松とカラ松が顔を見合わせて笑った。



「……兄貴、ひどい顔だぜ」

「……お前もな」



 グスグスと鼻を鳴らしながら、カラ松は泣き腫らした目を拭って、笑った。そして、しゃがみこんで泣いている末弟の手を引いて立ち上がらせる。



「とりあえず、ブラザー達は祭りに来たんだろ?なにか奢るぜ」



 そう言ったカラ松を先頭にして、兄弟達は鼻を啜りながら次男の後をぞろぞろと付いて行った。

 カラ松は寂れたとある出店の前に立ち止まって、胡麻餅を兄弟に奢った。



「ところでさ、お前は死んだはずなのに、どうしてここにいるんだよ」



 餅を食べながら、おそ松がたずねると、カラ松も餅を食べながら答えた。



「俺は確かに死んだよ。しかし、俺はよいこではなかったから……生まれ変わることを許されなかったんだ」

「……」

「だから、今ではこの世をふらふらさ迷うゴーストというワケさ」



 神妙な顔をして黙り込んでしまった兄弟に明るくウインクすると、カラ松は食べ終えた餅の容器を出店のゴミ箱に捨てて通りに視線をやる。



「そして、さ迷えるゴーストは俺だけじゃあないんだぜ」



 行き交う男女を指差して声を潜めて告げる。



「あの男も、あの女もゴーストだ」



 秘密を打ち明ける子供のように笑いながら、教えてくれた。兄弟には二人が生きている人間と変わらないように見えたので、とても驚いた。



「さっきのやつらが死んでるとか、嘘だろ?」

「……なんか、怖い」

「カラ松兄さんスッゲー」

「………」

「何か言って!一松」



 怖がったり、興奮したり、ワイワイ騒ぐ兄弟に、カラ松は眩しそうに目を細めた。

 やがて、餅を食べ終えるとカラ松は「良いものを買ってやるぜ」と言って、兄弟を引き連れて人混みを歩いた。

 そうして、縁日の隅にひっそりと立っている一人の女の前に来た。青白い顔をした女が花を売っていた。



「彼女の売るフラワーはゴースト達が買っていくものなんだ。コレは生きた人間が買っても何の役にも立たないものだからな」



 そう言って、カラ松は兄弟に六本の花を買った。

 おそ松には赤い花。
 チョロ松には薄緑の花。
 一松には紫の花。
 十四松には黄色い花。
 トド松には桃色の花。



「この花を見て笑う人がいたら、そいつはゴーストだ」



悪戯っ子のように笑いながら、カラ松は兄弟にずっしりと重たい花を渡した。

そして



「そろそろ俺は行かなくちゃいけない。じゃあな、マイブラザー。いつだって愛してるぜ」



 手の中の重たい花にすっかり気を取られていた兄弟は、唐突に告げられたカラ松の言葉に慌てて顔をあげる。カラ松のいた方を見ると、ちょうどカラ松が人混みの中に走り去る後ろ姿があった。



「おい!待て、カラ松」



 全員で慌ててカラ松の後を追いかけたが、足が速く匂いにも敏感な十四松ですら結局カラ松を見つけることができなかった。

 カラ松から買って貰った花はとても綺麗だったが、それは見かけによらずとても重たかった。

 兄弟は家に帰ることにした。途中、すれ違う人の中に、兄弟の手にある花を見て笑う者が何人もいた。

 家に入る前に、兄弟達は自宅に花を持ち帰ることを躊躇った。



「カラ松から買って貰ったとはいえ、死者が見て笑う花だなんて、やっぱり不吉だよな」



 自宅前でポツリと呟いたチョロ松の言葉に兄弟が手元の花に視線を落とす。



「僕……なんか怖い」

「ぼくもコレは良くないと思う」



 真っ青な顔で怯えるトド松に、猫目でまじまじと花を見る十四松。

 結局、全員で花を庭に投げ捨ててから、家に入った。

 家に入ってきた息子たちを見て、母は息子達の顔色が普通でないことに気付いた。

 そして、その日の晩、息子全員が体の不調を訴えるので、母親は一晩中、付きっきりで五人を看病し、その甲斐あって翌日の昼には全員回復した。

 その後、体調が良くなった兄弟達は、皆で庭に捨てた花を見に行くと、それらは死人の手に変わっていた。

End.
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