その他
□第五人格
19ページ/22ページ
〈Side:J〉
その日は、滅多にお目にかかれない極上の獲物を手に入れてたいそう気分が良かった。瞬間移動をして己の居住地である森に飛び、捕まえた獲物を自分の屋敷に連れ帰ろうとしていたときだった。
禍々しい何かが森に入ってきた。
しかも、かなり力の強い魔物が二人。血の匂いを纏わせながら、森の中を進んでいる。
遠くにいてもわかる濃い血の匂い。寒気がするようなおぞましい魔力の気配。
おそらく相手は吸血鬼だ。
(さて、どうするかな……)
十中八九、彼らはこちらに向かってくるだろう。
大事な獲物を抱えながら屋敷とは反対の方に移動する。得体のしれない輩に自分の根城を晒すのは避けたかった。しかし、予想通り移動ルートを変えても気配は確実に近づいて来ていた。やはりこの少年の匂いを辿って来ているのだろう。遠くへ飛ぼうかと考えたが、瞬間移動したとしても魔力の痕跡を追ってすぐに追いつかれるだけだろう。厄介そうな相手が二人もいるのだ。いたずらに力を使って魔力を消費したくはなかった。
迎え撃とうにも相手は吸血鬼。しかも、一人ではなく二人。対するこちらは非力な人間の子供を抱えている。足手まといにしかならない荷物を降ろせば、吸血鬼共を撒くことができるかもしれない。しかし、コレを手放せば確実にこの子供は奴らの餌食になるだろう。
(……だめだ)
せっかく見つけた極上の獲物を手放すのは惜しかった。
抱えている小さな身体をさらに強く抱き締める。サラリとした金の髪が顔に触れ、ほんのりと甘い匂いが鼻をくすぐる。
(コレは、私が見つけた……。私の獲物だ)
この飴玉のような目も、甘い血も、柔らかな肉も、すべて自分の物だ。
たとえ、相手が複数人いようが、吸血鬼だろうが、不利な状況であろうとも、高潔な魔狼の一族として、このジョゼフ・デソルニエーズがおめおめと己の獲物を置き去りにして逃げるわけにはいかないのだ。
抱いている小さな少年の身体を肩に担ぎ、反対の手で杖を構える。
吐き気を催すような強烈な生臭さにゾワゾワと全身の毛が逆立つ。
邪悪な追跡者たちが、すぐそこまで来ていた。