その他

□第五人格
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〈Side:J〉



 いつものように獲物を求めて町に出た。存在感を消しながら道行く人々の中を歩いていると、ふと甘い匂いがした。幼い子供の柔らかな肉の匂いだ。しかも、穢れのなさそうな清廉な魂をしている。これはめったにお目にかかれない極上の獲物だ。クンクンと匂いを辿っていくと大きな教会の前に辿り着いた。閉ざされていた大扉を開くと、広い礼拝堂の真ん中で白い服を着た少年をすぐに発見した。

 汚れのなさを示すような白い服。ステンドグラスから射し込む日差しを受けて透けるように輝くきれいな金髪。背中を向けているため顔は見えない。けれど、色鮮やかなステンドグラスと祭壇に続く大階段の下で、跪くように祈りを捧げる後ろ姿に、近寄りがたい神聖な雰囲気を感じた。

 神に祈る子供の姿は、まさしく哀れで非力な子羊そのものだった。

 己には祈る神などいないけれど、このときばかりはこの幸運な巡り合わせに感謝の祈りを捧げたくなった。



「何をそんなに一生懸命に祈っているんだい?」



 後ろからそっと声を掛けると、少年が振り返った。美しい緑の瞳が驚愕に見開かれる。音もなく背後に現れた異形の存在に驚いたのだろう。口元は白いマスクを付けていたので見えなかったけれど、なかなか端正な顔立ちをしているのがわかった。

 彼が悲鳴を上げるよりも前に、振りかざしていた杖を叩き下ろす。子供は濁った呻き声だけを洩らしておとなしく沈黙した。
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