その他

□第五人格
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※ジョゼフの二人称について※

・サバイバー相手にハンターとしてのスイッチが入ってる時や苛立ってる時は「お前」呼び。
・親しい人や猫を被ってる時は「きみ」呼びにしています。
・基本的にイソップ単体には「きみ」。




















 しんしんと雪が降る見慣れない広いフィールド。そこは自分が苦手なフィールドだった。今までも何度もカスタムで下見に来たけれど、未だに慣れないマップであり、スポーン位置もうろ覚えだったりする。

 そして、今回は見慣れないサバイバーが一人いた。職業は納棺師というらしい。能力は不明。



「…………」



 少し考えてから、とりあえず今回は慣れていない広範囲のマップや新入りサバイバーの情報収集がてら、普段めったにしない優鬼をすることに決めた。とりあえず、頭の奥で発生する微かな耳鳴りを頼りに薄暗く真っ白なフィールドを進んでいく。

 その後、占い師を筆頭に三人見つけて暗号機を解読させ、たまに雪遊びに興じつつ、例の新入りのサバイバーと遭遇することなくあっという間に通電した。端末の使い方もよくわかっていないのか、チャットを送ってこない納棺師を心配する三人に、イソップ・カールを必ず無事に帰すと約束して、ゲートの向こうまで見送った。



「さて、何処にいるのやら……」



 とりあえず、お目当ての納棺師を探しに広いフィールドを歩き出す。

 やがて、遠くから烏の鳴き声が聞こえてきた。烏が最後のサバイバーを知らせてきたのだ。そうして、辿り着いた先は、黒い鳥が集っているロッカーの前だった。



「…………」

「……ヒック……ヒック……」



 ロッカーの中からくぐもった泣き声が聞こえる。



「……こんにちは、新入り君。そこにいるんだろう? とくに危害を加えるつもりはないから、そこから出ておいでよ」



 ロッカー越しに語り掛けると、少し間をおいてからゆっくりと扉が開かれて、中から泣き腫らした目をしたマスクを付けた灰色の青年が出てきた。



「……僕を、殺さないんですか?」



 涙に濡れ、ひどく怯えた瞳がこちらを見上げる。その目に狩人としての性か嗜虐心を煽られる。ゾクゾクとした愉悦に背筋が震えた。椅子に縛り付けて、恐怖に歪む顔を見たい。血に倒れ伏せ、苦悶の声を上げて這いずる様を見下ろしたい。知らず知らず、サーベルを握る手に力が入る。

 けれど、今日は試合をしに来たわけではない。サーベルを握る手からソッと力を抜いて、柔らかい口調を心掛けて相手の問いに答える。



「いいや、殺さないよ。今日はね」

「……ど、どうして?」

「気まぐれにサバイバーを愛でるのが私の趣味でね。そういう気分のときがあるのさ」



 不安げに尋ねられた質問に、サラッと虚言を並べ立てる。



「それよりも、初めまして。新入りのサバイバー君。私は写真家のジョゼフ・デソルニエーズという。どうぞ、お見知りおきを」



 右足を後ろに引いてお辞儀をする。



(これで、害意がないことが伝わるといいのだけど)



 下げた頭を上げてみると、彼はとても困惑している様子だった。最近、荘園に来たばかりで、優鬼の存在を知らないのだろう。



「……さて、どうしようか。他の三人は既に帰ったんだけど」



 ちらりと青年の方に視線をやると、ひどく青褪めた顔でビクリと肩を震わせる。



「私としては優鬼らしく、きみを甘やかそうと思っていてね。……ちょうど雪も降ってるし、雪合戦でもするかい?」

「……僕は、はやく帰りたいです」

「そうか。私はもう少し話しがしたいのだけれど。どうかな? 納棺師君」



 そのためにわざわざ優鬼をしたのだから。

 せっかく優しく話し掛けても、彼は怯えたように身体を震わせながら、フルフルと首を振ってこちらを拒絶する。頑な拒絶に段々と苛立ちが込み上げる。



「……こちらは危害を加えないと言っているのに、お前は何をそんなに怖がっているんだ?」

「あ、あなたの手にあるソレが、怖いんです……」



 震える声で指摘され、初めて気付いた。すっかり手に馴染んだ己の愛剣は彼らサバイバーを殺すための武器である。普段、自分達を斬りつけるハンターが、凶器を手にすぐ近くにいるのだから、こちらが危害を加えないとどれだけ言ったところで、狩られる者として植え付けられた恐怖は早々拭えるものではないだろう。



「あぁ……。そうか、それは悪かった。……とりあえず、ゲートまで送るよ。着いておいで」



 くるりと背を向けてゲートに向かって歩き出す。少し距離を取りながらではあるもののきちんと後ろから納棺師が着いてきているのが気配でわかった。怯えている相手に話しかけることはせず、ただゆっくりとゲートを目指して歩いていく。途中で遠目にハッチを見つけたけれど、敢えて無視した。



「ほら、着いたよ」

「……ありがとうございます」



 ようやくゲートにたどり着き、納棺師と向かい合う。出口を前にした納棺師は、相変わらず緊張しつつも、どこか安堵しているように見えた。



「ねぇ、きみの名前を教えてよ」

「え?」

「さっきも名乗ったけど、私の名前はジョゼフ・デソルニエーズ。きみは?」

「え……あ……イソップ。イソップ・カール、です……」

「イソップ君。このあと良かったら私の部屋においでよ。コーヒーをご馳走するよ」

「えっ」

「ハンターは試合以外ではサバイバーに危害を加えることは許されていないんだ。だから、安心して遊びにおいで」

「いや、あ、あの……でも、僕……」

「先程も言ったけれど、私はきみと話しがしたい。美味しいコーヒーとお菓子を用意して待っているよ」



 このまま別れる気はサラサラなかった。困惑し、断ろうとしている気配を察して強引に話しをまとめて、ゲートの向こうに背中を押し出して見送る。見るからに物静かで誠実そうな青年は、「待っている」と言った自分のために律儀に来てくれるだろう。そんな確信があった。
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