その他

□第五人格
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◆◆◆




 ふと、何かが己の獲物に接触したのを感じた。

 それは、ふんわりと甘い果実の香りがする紅茶を飲んでいたときだった。ソッとティーカップをソーサーの上に戻す。窓の外に視線をやると、普段通りの木々に囲まれた暗い景色が見える。さらに気を集中させると、予め獲物の身体に刻んでいた印を通じて、遥か遠くにいる獲物の気配が感じ取ることができた。

 どうやら、イソップは住んでいた町を離れて王都へ行くらしい。その様子が手に取るようにわかった。



「……ふふ、いいよ。行っておいで」



 少年の才能は芽生えたばかりで、まだ完全に花開いてはおらず、故に今は狩りを始める時期ではなかった。

 ところで、あの子は一体どんな素敵な力を秘めていたのだろうか。プレゼントの中身を想像する子供のように、イソップに秘められた力をあれこれと勝手に推測してみる。

 特別な力を持つ人間は、その才能が開花仕切ったときが最も美しく、そして最も美味であった。その力が未開花な状態でも非常に美味ではあるけれど、深く酔いしれるような至福の味にはいまいち及ばなかった。気まぐれではあるけれど、せっかく見逃したのだから彼には極上の獲物として美味しく育ってほしい。



「どんなに遠くへ行こうと、どうせきみは逃げられないのだから」



 目を瞑り、遠ざかる獲物の気配を感じながら、飲みかけだったティーセットを片付ける。



(収穫の時期は、近いのかもしれない)



 やがて、訪れるだろう再会に胸を弾ませながら、舌の上に蘇るかつて味わったあの甘美な血の味を懐かしく思い出していた。


End.
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